厚生労働省職業能力開発局長賞

【 テーマ:多様な働き方への提言】
障害者が働ける社会
東京都 大 倉  六 46歳

安倍首相は、アベノミクスの第2ステージとして「1億総活躍社会」を目指すと宣言した。現在、日本の人口は1億2696万人で、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じている。「1億総活躍社会」とは、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を目指すというものである。私は「1億総活躍社会」を初めて聞いた時、「なんと、素晴らしい社会だ」と思った。何故なら、私と同じ障害者が社会に出て、活躍する姿を思い浮かべただけで胸が躍ったからである。

内閣府発表の平成25年版障害者白書(概要)によると、日本国内の障害者は約741万人で、この数は国民の約6%に相当する。一方、事業所(従業員5名以上)に雇用されて働いている障害者は約45万人である。重度・軽度の障害差はあるが、障害者が社会に出て、働く事は易しいものではない。私は健常者として入社し、その後、病気になり、障害者になった。さまざまな勤務体系を経て退社した。私の経験から、障害者が働ける社会を提言したい。

 1995年、私は大学院を卒業し、総合電機メーカーに入社した。1999年に結婚し、翌年にはミレニアムベイビーが誕生した。2001年8月、社内公募制度を利用して携帯電話事業の生産管理部に異動した。会社も家庭も順調かと思った矢先、私は病魔に襲われた。その病はALS(筋委縮性側索硬化症)である。ALSは徐々に全身の筋力が奪われ、一般的に3〜5年で寝たきりになると言われている。その時、私は31歳。異動してから半年が経ち、仕事と職場にも慣れ、これからという時だった。病気のことを上司に相談すると、会社と職場は色々な面で支援してくれた。定期的に産業医と面談をし、体調の変化に応じて業務内容や職場の変更をしてくれた。2003年6月、歩くのが難しくなると、自宅での在宅勤務になった。本当に有り難いことだった。在宅勤務は3年程続いたが、この「在宅勤務」が障害者にとっての有効な勤務手段だと思う。

 在宅勤務とは、インターネットとIT端末を活用して自宅に居ながらオフィスと同じ仕事をすることである。最大の利点は通勤がないことで、車椅子の方や寝たきりの方でも十分に勤務が可能である。私の場合、携帯電話で使われる部品の生産管理をしていた。工場の実在庫はオンラインで繋がっていた為、月別の生産計画から部品毎の需給計画を立てていた。喋れないこともあり、会社との連絡は全てメールだった。一日の終わりには、日報という形でその日の仕事を報告した。このように、ある程度のパソコンの知識と操作ができれば、障害者の在宅勤務は可能である。ただ、在宅勤務の欠点は仕事のオン・オフがないことである。サボろうと思えばサボれるし、全て自分で時間を管理する。だからこそ、会社側は在宅勤務者に対し、その人に合った目標管理を設定し、週または月単位で進捗状況を確認する必要がある。

今の私は寝たきりの生活を送っているが、僅かに動く頬の筋肉でパソコンを操作し、文章作成やメール、インターネット検索などができる。こんな私でも「働きたい」と思っている。働く事は「社会の一員」と感じられるからである。働いた収入で税金を納める。社会から恩恵を受けている私だが、働く事で社会に寄与できると思う。障害者が働く事は、社会にとっても意味のあることではないだろうか?たとえ身体が不自由でも、働くのに十分な能力を有する障害者が大勢いる。「健常者だから」とか「障害者だから」という区分けではなく、普通に「障害者が働ける社会」が訪れることを願っている。

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