【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
生活保護の仕事から学んだこと
大阪府  後利左衛門 47歳

私は今、市役所の生活保護を担当する職場で働いています。

毎日、色々な事情を抱えた方が窓口に相談に来られ、相談の内容は、世帯単位で1冊のファイルにまとめていきます。私は事務職として人事異動で配置され、相談に関しては、福祉の専門的知識を持つ相談員やケースワーカーをサポートする役割です。

 棚にびっしり並ぶファイルの背表紙には世帯主の氏名が記されていて、そこに一人ひとりが歩んできた人生のストーリーが凝縮されています。私はこの現場で日々、多くのことに気付かされ、学んでいます。

 ある日、私と同世代の働き盛り、思春期の子どもを抱えた父親が、長い闘病生活の末、仕事を失い、家を失い、生活相談に来られました。働きたくても働けない。張り裂けそうな思いを抱え、生活保護の申請をされる父親の姿が自分に重なります。生活保護の開始後は、定期的にケースワーカーが訪問し、少しずつ弱くなっていく父を支える家族の姿も記録していきます。先日その父親は亡くなりました。残された家族は、悲しみを抱えながら、少しずつ自立に向けて歩み始めています。

この職場で働くまでは、「生活保護を受ける人は特別な人」「どちらかと言えば怠け者」と思い込んでいました。でも今は、「自分の身に何かあったら、支援する側の自分が、明日にでも支援される側にいるかもしれない」という意識が頭を離れることはありません。同時に、当たり前と思っていた健康や家族、そして自分の仕事が持つ意味を考え始めました。

また、生活保護を受ける方のなかには、社会にうまく適応できず苦しんでいる方、あきらめてしまっている方が少なからずいます。薬物依存や虐待、長期間のひきこもりなど、社会問題として取り扱われることも多い問題を抱える方と実際に向き合っていると、地に足をつけた地道な取り組みが必要だと痛感します。生まれ育ってきた環境に影響されているケースも多く、こうした場合、そもそも本人の問題意識が低いことから、担当のケースワーカーを中心に、私たちはゆっくりと息の長い伴走を続けることになります。

専門的知識がないと対応できないことも多く、「精神保健」「就労支援」「健康管理」「母子自立」などの分野で専門職として研鑽を積んできたスタッフが担当のケースワーカーのサポートにあたります。思いも寄らないことが頻繁に起こる過酷な現場で、ケースワーカーや専門スタッフの献身的なサポート、それを支えるその道のプロとしてのプライドに触れていると、改めて私の役割って何だろうという思いが沸き上がってきました。

事務職として役割を全うすることはもちろん、「私も専門的な知識を身に着けて、何か役に立ちたい」と思い、産業カウンセラーの資格取得をめざすことにしました。40代半ば、不器用な私でも、話を聴くくらいならできるだろうと毎週土曜日に講座に通いました。傾聴の実習は失敗ばかりで、土曜日が来ないでほしいと思ったことは数知れません。それでも、同じ目標を持つ講座の仲間に支えられ、何とか資格を取得することができました。受容や共感といった傾聴の基本を学んだことで、不安を抱えながら初めて相談に来られる方への応対にも余裕ができ、プライベートでは地域の高齢者施設での傾聴ボランティア活動に参加しながら、講座で知り合った仲間と勉強も続けています。

生活保護の仕事は「なぜ市役所が必要なのか」という原点を、毎日私に問いかけてきます。100人いれば100通りの人生があり、一人ひとりがそれぞれのやり方で、それぞれの人生のゴールまで歩いて行く、という当たり前のことへの気づきと、それが持つ意味を考える機会を頂きました。

今、縁あって様々な人生に寄り添う仕事に出会えたこと、誇りを持って仕事に向きあう仲間から、自分を変えるきっかけを頂いたことを心から感謝しています。

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