【 努力賞 】
【 テーマ:多様な働き方への提言】
幸せに働くための条件
東京都  岸 本 千 枝 49歳

精神保健福祉士として働く私の職場(診療所)には、日々、様々な「働くこと」を問題として抱える患者さん達がやってくる。精神疾患を抱えつつ、求職活動をしている人、働く事に困難を抱えジョブコーチや種々のアドバイスを利用する人、リストラされ、パワハラされ、不当な待遇を受け、精神を病んでしまった人、職場の人間関係のやりづらさを訴える人、転職を繰り返す果てに自宅から出られなくなった人等々。社会の一員として、働く大人になる事を課され奮闘しているのに、どうしてこうも社会は厳しいのだろう。

 大きくなったら何になりたい?と将来、夢に見ていた社会は、常に数字や、成果を求められる世の中になっていた。安いコストを求め海外へ流出した多くの生産労働は、健康に自信がない人、障がいを持ちチャレンジする人、力の弱い人たちの雇用の場を奪っていった。効率、成果ばかりが最優先される職場で、頭脳プレーヤー達も疲弊している。若者の夢の自己実現だった労働を、不安な未来に変えてしまった、我々、大人の責任は大きい。

 あんなに嫌だった勉強、面倒だった登校、そこから解放される一瞬の解放感を味わうこともなく、就活、内定、採用、とさながら動く歩道。遊びたい? 寝ていたい? 休みたい? もちろん! でも、いつまで? ずーっと? その先は? どこにいるの? 何するの? 将来、お金、結婚、出産、安定した生活を送れるの? 恐いね、不安だね。

 根拠なく勇気づけることはあまりにも虚しいが、若者たちに私が言えることは、学歴、学んだ知識はきっと選択肢を広げてくれること、けれど、選択肢が広い事が、イコール安定した将来を約束してくれるわけではないこと。頑張った勉強や、スポーツがそのまま仕事に結びつく強運の持ち主は僅かかもしれないけれど、努力をしたという記憶は、必ず自分の糧になり、次の道を照らしてくれること。収入が良いに越したことはないけれど、イコール幸せとも限らないこと。働かなくても暮らしていけることは、ある人にとっては恵まれているかもしれないけれど、働けないことは不幸にほかならないこと。働くことは、苦しいが、未知で刺激的でワクワクすること。楽な労働はひとつも無いけれど、楽しく働くことは絶対に可能であること!

 幸せに働くための条件は学歴でも容姿端麗でも人脈でも運でもなく、健康な身体と折れない心、そして、仲間。失敗して、疲れて、落ち込んで、帰ってきても、「明日はなんとかなるかもしれない」と自分を奮い立たせる強い心と、食べて眠って休んで、回復できる体力、きっと大丈夫だよと信じ、支えてくれる仲間なのだ。

 増々、社会情勢は厳しくなり、教育や生活に格差を産む未来は目に見えている。若者に期待する一方で、若者のモラルとやる気だけに期待と気運をかけてばかりでは、若者を潰しかねない。多様な働き方ができる仕組みを作るのが先決なのだ。若者だけでなく、国が、大人が、企業が、数字だけに捉われない労働環境へ、戻すのではなく、ヴァージョンアップ、変革していかなくては、若者、現役世代を含め、壊れてしまうのではと危惧している。

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