【 努力賞 】
【テーマ:多様な働き方への提言】
生涯現役社会への提言
京都府  北大路 清  33歳

 先日、祖父の七回忌であった。そのことを偲ぶと、80歳を超えてもなお現役で働いていた姿が浮かんでくる。その事務所があった場所に行ってみるが、今は、もう駐車場となってしまっている。

祖父が仕事を失ったのは、事務所が潰れたからではない。体調を崩して二週間の入院生活を過ごしたことにより、痴呆症となってしまったからである。入院前は、パソコンを扱ったり、車の運転をしていて、とても八十歳を超えているとは思えなかった。今でも、入院期間中に打つべき手はなかったのかと悔やまれる。

 私は、就職氷河期末期の世代である。もし、あと一年浪人か留年をしていれば、今頃は派遣社員でなかったかもしれない。もうすでに五社の派遣会社を渡り歩き、電池や自動車、精密機械といった製品の生産に携わってきていて、失業するのは慣れっこである。まだ三十代だから、すぐに次が見つかるという楽観的な感覚でいる。だが、四十代、五十代になった時のことを考えると頭に不安がよぎる。

 派遣社員として企業を渡り歩いているうちに見つかった一つの共通項、それは、二十代の若者はすぐに体調不良で仕事を休むのに、四十代以上の世代の人たちは仕事を休むことがほとんどない。これは別に今の若者の体力低下を嘆いている訳ではない。今の御時世、楽な仕事なんてある筈がなく、キツイ仕事をしているのは誰も同じである。前者は少しのことで休んだり遅刻したりするが、後者は少しぐらいしんどかろうが痛かろうが休むことはない。

 それを裏付ける事実として、入院しているにもかかわらず、病院を昼間だけ脱け出して、そのことを隠しながら、仕事をしている人を知っている。それも一人や二人ではない。その理由を訊ねると、「休んだら、ワシの仕事、若いモンに取って替わられるやん」と言う。

また、工場の閉鎖による一斉解雇が通知された時悲痛な叫びをあげるのは、その世代の人間たちであった。そのことを他人事のように見てきていたが、そろそろ私も他人事ではなくなってしまう頃である。なぜなら、派遣の35歳問題に、あと二〜三年で達しようとしているからだ。それは、どの企業も若い人材を欲しがることにより、35歳を超えると派遣の働き口がなくなってしまう現象のことである。また、40歳を超えると介護保険に加入しなければならず、少ない手取りなのに、それが更に減額になってしまう。

政府は一億総活躍社会を掲げ、女性を積極的に活用しようとしている。その理由は、少子高齢化により労働力不足が懸念されているからに他ならない。しかしそれも大事だが、中高年世代の積極的な活用を政府にはもっと真剣に考えてもらいたいものである。そうすれば、社会保障費の削減につながるので、財政再建策の有効な一手になりうるのではないか。だからこそ、私は生涯現役社会を提唱する。そのためには、シルバー世代の体力に合わせて、週四日勤務や時短勤務の制度を浸透させ、中高年世代の再教育制度を充実させねばならない。

もはや、このままでは社会崩壊を引き起こしかねない状況である。なぜなら、人口ピラミッドはピラミッドではなく、逆三角形に近づきつつあるからだ。そうなれば、ピラミッドの上層にいる人間もそれを支えなければならなくなる。だからこそ、生涯現役で活躍できる社会に変わっていくしかない。

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