【 努力賞 】
【テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
働くうえで大切なもの
東京都  伊 藤 竜 史  34歳

子どもの頃から引っ込み思案で友達も少なかった私は、何かを表現することに消極的だった。

「否定されたら嫌だな」「自分の考えを言うなんて恥ずかしい」「どうせ誰も面白がってくれないだろ」

いつも周囲の目を気にする、そんな調子だった。

ところが人生とはわからないもので、私は広告の仕事に就いた。それも企画の部署に配属されてしまった。自身の性格とは真逆な素養を求められる仕事で、日々企画を考案してそれを皆の前で披露しなければならない。自分に務まるのか、とても不安だった。

その不安はやはり的中した。来る日も来る日も上司やお客さんからはダメ出しの嵐。「やっぱり自分には向かないんだなぁ。辞めようかなぁ」と何度も思った。当然、仕事に面白みを感じることも皆無だった。

その日もお客さんの企業に持ち込んだ企画をダメ出しされていた。

「この企画、どうして面白くないかわかりますか?」

まさかの質問。答えに窮した私は「…いえ、ナゼでしょう…?」と返すのが精いっぱい。

「まるで個性がないんです。無難で普通すぎるんですよ。もっと貴方の思いだったり熱意だったり、そういうものが欲しいのです」

その指摘は衝撃的だった。自分でもうすうす自覚してはいたのだけれど、考えを否定されるのを恐れて、私は平均点以下でも以上でもない、無難な企画ばかりを作り続けていた。それを完全に見透かされた格好だ。その恥ずかしさといったらなかった。ダメ出しされる以上の恥ずかしさだ。

その一件があって、私は考えを改めることになった。ダメモト上等で自分の考え≠企画に盛り込むことを課した。時には怒られてしまいそうな、冗談めかした企画も出した(商品名を書き込んだ水着姿の女性が街を練り歩くとか…)。

変化は徐々に現れはじめた。

「すごく面白い広告を考える奴がいるらしい」「じゃあ彼に一度お願いしてみようか」「一緒に仕事してみたら面白かった、また一緒に…」

社内外でちょっとした評判になってしまったのだ。つい先日まで引っ込み思案で細々と目立たない仕事をしてきたことを考えると、有り得ない展開だった。

それからは一転して仕事が面白くなった。次第に大きな案件も舞い込むようになり、共感しあえる仕事仲間も増えた。この変化において自分が心掛けたことは、本当に単純だけれど「個性を素直にアピールする」ということだけだ。過去を振り返ると、いかに没個性的だったかと反省することもあるが、自分なりに苦労した必要な時間だったのかとも思う。

広告に限らずどんな仕事でも、自分の個性を少しでも取り入れることが大事だとつくづく思う。仕事はその人そのもの。そこに個性が光っていた方が良い。コンビニの店員さんもタクシーの運転手さんも、その人らしさに触れると嬉しくなる。

私も代替のきかない、唯一無二の広告マンであり続けたい。

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