【佳作】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
働くこと、それは夢と希望の入り口
大阪府  西崎めぐ美  56歳

ピンポーン≠ニ玄関のインターホンが鳴った。小走りに玄関に行きドアを開けると、若い男女数人が振り袖姿とスーツ姿で立っていた。

「おばちゃん、こんにちは。将司(まさし)に会いに来たんです。僕、山口です」

それは、十五歳で亡くなった次男の同級生達で、成人式の後、訪ねてくれたのです。

次男は、誕生時出産トラブルにより低酸素状態となり、脳に障害が残りました。それでも地区の小学校に席を置き体調の良い日は、皆と授業も受けました。その同級生達が順に仏壇に手を合わせると、山口君が言った。

「おばちゃん、元気そうやん。良かったぁ。今、どうしてるん?」

「おばちゃんねぇ、お店に行っておじちゃんと頑張ってるよ―。」すると、一人が、

「お店(野菜小売店)があって良かったな」

「どうしてるんやろって、話しててん。」

「おばちゃん、働いてるんや。おばちゃんの居る場所見つかったんや。良かったなぁ」

銘々が自分の想いを話します。将司の世話に日々過ぎて行った私の生活が、旅立った後どうしているのだろう…と心配していたんだと話す姿に、胸がいっぱいになりました。

「僕らの現在を発表しようか―」誰かが大きな声で言いました。

「僕は、専門学校でデザインの勉強してます」

「私は、美容師の卵です」

「僕は、大学で法律の勉強してます」

「僕はまだほんまにやりたい事捜しながら、大学に行ってる。」

「僕はもう働いてる。初給料は、ばっちゃんに、おこずかいあげたら泣いて喜んでくれてん。」と、照れくさそうに話する。

「僕は警察官。そこの派出所に居てるねん。将司の家が近くで、まさかの転居先勤務地って母さんに言ったら弱音はかん様に、将司君の近くに神様がしはったんやわって笑っててん」山口君。

皆んなが、くじけそうになると将司を思い出すと話した。そして、生きてる自分を活かせる仕事に就きたいと話した。

小学時代、次男と共に過ごした少年少女達は想像もつかない程の刺激と、自分の命について考えたのだろうか。

その答えが、成人となり自分を活かせる仕事に就きたいという希望に繋がっている姿に、私の心は震える程の感動でいっぱいになりました。働くという事に真正面から向き合う姿と、「おばちゃんの居場所見つかったや」の一言は、必らずこの子達は希望の道へと歩いていけるだろうと確信したのでした。

あれから四年が経ち、つい先日、ばったりと同級生の一人と出会いました。

「ほんまにやりたい事捜しながら、大学に行ってる…」と言っていた彼でした。

髪を短くし、筋肉質の体格をした青年になっていて、直立し脇にピッタリ手を添え深々と私に頭を下げました。そして、

「僕、救急救命士になりレスキュー隊で働いています。やりたい事、見つけました。」

にっこり笑う彼は、眩しく逞しく大きく見えました。

「僕も、将司の家近くの消防薯勤務です。山口みたいに、気合を入れて守りますから」

心強い言葉を私に残してくれ帰って行きました。うしろ姿に、おめでとう、良かったねと言いました。

彼の姿に、働くことは自分の人生を豊かにする夢と希望の入口の様で。

出会えた人や重ねた時間は、自分を育て励まし自分だからこそ描ける物語を作り上げていくのです。

私の物語も終盤です。終止符をうつその日まで、自分の可能性に挑戦していきたいです。

出会えた人に感謝しながら……。

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