【努力賞】
【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
再就職人生を見つめ直した1年
兵庫県  織田はじめ  67歳

私は昨年、48年間勤めた会社を定年退職した。そのまま契約社員として働くことも出来たが、外の世界で自分を試して見たかった。在職中に経験したイントラネット関連の業務が社外から高い評価を受けたこともあり、この分野で世間に評価を聞いたいと思った。今から思うと会社の力を自分の力と勘違いし自信過剰だった。

私は、あと10年間は働くつもりで体力も気力もあった。退職後から6か月間、予てからの夢であったウェブデザインや雑誌編集の技術を必死に学んだ。パソコンに習熟し技術レベルの高い20〜30歳台の若手と一緒に日に12時間、右手がこむら返りを起こすのではないかと思う程に頑張った。そのかいもあって自分でも驚くほどのセンスの良いポスターやデザイン、ホームページが作成出来た。

地元の神戸や沖縄、大阪で就職活動を行い履歴書は20枚程度書き、面接も約15回受けた。3次の最終面接まで行ったことも有ったが就職は出来なかった。この時は、無念さと自分の不甲斐なさから「俺は腐ったリンゴか」と落ち込んで酒に助けを求めた。

周りの人は慰めてくれるが、冷静に考えると技術未熟と年齢がネックとなり再就職は難しかったと自覚した。これは常識的な判断で、立場が替われば私も同じ判断をしただろう。指導を受けた講師からも「企業経験と努力は認めます。でも素人としてはいい出来だと思いますが、プ口としてやっていくにはまだまだ努力の余地があります」との私に配慮した評価を聞いて自分でも納得した。

それでもこの分野に挑戦したくて、友人の助言を受けて仕方なくネット経由で仕事を始め切瑳琢磨したが、徹夜で頑張っても月2万円稼ぐのがやっとで挫折。働く気力を失い、2カ月間ダラダラして過ごした。家で妻と一日中顔を突き合わせていると息が詰まりそうで、妻の表情も暗くなった。気分転換で料理教室に入って、自炊にも挑戦し技量は向上したが、自分が求めているものではないと感じた。

初秋のある日、1年前は自転車で登れた坂が登れなくなっていて落ち込んだ。この出来事が私の背中を強く押した。すぐさまシルバー人材センターに登録し仕事をすることにした。私の決心を試すように仲間10人で駅前に立ちティッシュを配る単発業務が入った。照れくさかったが、助け合って汗をかいて働くのは心地良かった。1日の仕事が終わると10人に親近感というか仲間意識が芽生えた。

そして今、大企業の管理職だった私は、駐輪場の管理人として自分で体と手を動かし汗をながして働いている。最初は元の部下や顔見知りの人に逢うのが恥ずかしかったが、3カ月もすると慣れて仕事に誇りを持てるようになった。扱う金額は100円単位で以前の仕事に比べると3ケタ少なくなった。それでも相手は親切な客、高圧的な客、不機嫌な客と様々。自分を鏡で見ているようで勉強になる。この職場では建前ではなくて、本音がもろに出て自分に足りなかったものを客が教えてくれる。冷静に考えれば誰にでも分かる見落としなど考えられない失敗、思い通りにいかないことも多いが、先輩が優しく指導してくれる。私にはこの優しさがなかったことに気付く。

妻にも色々迷惑をかけたが働くことの難しさと、体を動かすことの楽しさを知った1年だった。それでもウェブデザインへの挑戦心は失っておらず懸賞応募、ボランティア活動などを通じて、初心を忘れることなく技術を磨き2〜3年程度は、今の仕事をしてお金を貯め、プロへ再挑戦したいと思っている。

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