【努力賞】
【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
高校生とアルバイト
神奈川県  遅井さとる  18歳

「高校生になったらバイトがしたい!」
中学生の私はそう言って、アルバイトが許可されている高校を探した。私はアイドルが大好きな所謂「アイドルオタク」なのだ。ファンクラブ費4000円、コンサートチケット代7000円前後、その他CD、DVD、雑誌、グッズ等、とにかくお金がかかる。月に5000円のお小遣いは中学生にとって大金だが、オタクにとっては雀の涙。それでも私はアイドルにお金を使いたい、ならば自分で働いてお金を稼ごう!と思ったのだ。

そんな私は高校生になってから今までいくつかのアルバイトをしてきた。1年間働いたファストフード店では、共に楽しく働ける仲間や熱心に指導してくださる社員さんに恵まれ、働くことの楽しさや、働く人としての心得や常識を学んだ。

最も印象に残っているのは宅配便の仕分け作業のアルバイトである。未経験者歓迎、シフトは週1日から可、時給1000円という条件は、平日忙しく、かつコンサートに行く為のお金が必要だった私にとって魅力的であった。肉体労働が殆どの体力のいる仕事だったが、短期契約で週末のみの出勤だったので負担にはならなかった。

朝礼で「本日も人手不足です」と告げられるが、膨大な量の荷物はお構いなしに届く。アルバイトの私は契約時に決めた時間以上の労働を強制されたことはないが、社員の方が休んでいる姿は見たことがなかった。アルバイトを雇っても解消されない人手不足は、社員が働くことで埋めるしかないからだ。与えられた仕事をこなすのは当然のことだが、その為に生まれたこのような状況が「過労死」「ブラック企業」といった社会問題を引き起こしているのではないだろうか。過労死は最も悲しい死因の一つだと思う。生きるための仕事で死んでしまっては意味がない。人の命の問題なのに、簡単には改善できない厳しい現実があった。つまり私はこのアルバイトを通して、ほんの一部だが労働の実態を間近で目撃したのである。このことは私に「働く」ことについて考える機会を与え、労働問題に関心を寄せるきっかけとなった。また、今や当たり前になっている“頼んだ荷物が翌日届く”システムは、社会という大きな構造の中で小さな部品のように働く大勢の労働者によって担われていることを体得した。

アルバイトは高校生が社会経験を積む絶好の機会だと私は考える。お金を稼ぐことの大変さや、大人として扱われる上で大切なことは何かを身をもって学ぶことができ、職場で起きている問題からそれまで他人事のように聞こえていた報道にも関心が生まれる。また働いてお金を得ることには、部活や学業で優秀な成績を収めることとはまた違った達成感がある。若く無知な視点を持っている時期に働くことで見えてくるものが必ずある。だからこそ共に未来を担う仲間達に、できれば高校生のうちに「働いてお金を稼ぐ」ことを体験してほしいのだ。

高校生がアルバイトをすることに否定的な大人はたくさんいる。実際、アルバイト禁止の高校も多い高校生の本分は学業で、未成年者が働くことを心配するのは当然の親心だろう。しかし「可愛い子には旅をさせよ」という言葉がある。子供に、アルバイトがしたい、と言われた時、どうか頭ごなしに反対しないでほしい。きちんと話し合ってルールを決めれば、健全な高校生活をなおざりにせず働くことは可能なはずだ。働くことに対する前向きな気持ちを無下にせず、今まさに大人になろうとしている子どもの素直な力を信じてほしいのだ。

働きたい動機が、必ずしも立派である必要はない。暇を持て余している、お金がほしい、高価なカメラがほしい、きっかけはなんでもいい。「アイドルオタクがしたい」だけだった私はアルバイトを通して、未来を担う一員として社会について考えようとする力を身に着けることができた。アルバイトから学んだことは、全て私にとってかけがえのない経験になった。それが私の「働く」ということから得た財産である。

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