【 公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
あなたは誰かのためになれる
兵庫県 亀 田 恵美子 54歳

私たちは何のために働くのでしょう。働いて得るものって何でしょう。私がこれまで働いてきたなか で気づいたことを、これからの若い人たちに伝えたいと思います。

何のために働くのか。それはもちろん生きるためです。自分の時間と労力を使って働くことで、多く はお金という対価を得て、生きていくために必要な食べ物を始めとする生活用品を買うことができます。

そうして得られるお金は、いわば「生活の糧」といえるものでしょう。

では働くのはこの「生活の糧」であるお金を得るためだけなのでしょうか。いえ、私はもう一つ、形 には見えないものながら「心の糧」といったものをも得ているのだと考えています。

私は日頃、個別指導型の学習塾で講師として働いています。小学生から高校生まで生徒たちの学習に 寄り添うのが任務ですが、アルバイト講師を務める大学生の成長をも見守っています。

アルバイトの学生講師は大抵真面目で、自分が勉強して身に着けてきた学習知識や受験の経験を活か しきちんと生徒への指導にあたろうとします。

しかしほとんどの学生講師が「勉強の良く出来る子ども」としてどの教科もあまりつまずかずに大学 合格までやってこれたものですから、塾に通ってくる(多くはいやいや通ってくる)生徒たちの学習困 難ぶりがどうにも理解出来ないようなのです。

しばらくすると、うまく教えられないと悩み無力感にさいなまれたりもします。これはどの学生にも みられ、私はその都度話を聞いたり、その学生に合ったアドバイスをするように心がけてきました。

ただそうなった際、そこからはもうバイト代のため、と割り切ってドライにただ授業をする学生と、工 夫に工夫を凝らして、学習困難だった生徒であっても、問題を解けるように最後まで導ける学生とにわ かれていくのです。

さて。この両者の学生たち、卒業してアルバイトを辞めていく際、「生活の糧」として得られた報酬は 同じです。でも決定的に違うのが「心の糧」をも得られたかどうかなのです。

塾に通ってくる生徒たちは、思春期真っ只中ですからそんなにストレートに気持ちを言葉にしないも のです。それでも受験に合格した時などに「ありがとうございました。」と感謝の言葉を言ってくれるこ ともあります。

生徒たちにとっても、心も時間も使って教える努力をしてくれた学生講師に対しては格別な印象を持 ち、たとえ小さな声でも感謝を伝えてくれるようです。そうした講師にとってはこの「ありがとう」を 言われる時が、何にも増して嬉しい、「心の糧」を得た瞬間になるのです。

自分が頑張ったことが誰かのためになる。自分は誰かのためになれる。

それこそが生きていくために必要なもう一つの糧、「心の糧」だと思うのです。

私はこれからの若い人たちが、是非とも額に汗して働いて、「生活の糧」と「心の糧」の両方を得て ほしいと願っています。そしてそのためにはこれからも、私は私のいる場所で自分自身も頑張りながら、 若い人たちを全力応援していきたいと考えています。

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