【 入選 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
脳みそに汗をかこう
神奈川県 セ ン 美 恵 58歳

仕事で、ポスターのキャッチフレーズをつくっていたときのことです。たしか、元号が昭和から平成 に変わった頃だったと記憶しています。

試行錯誤して体裁を整えた原案を上司に見せたところ、反応「う〜ん」とうなるだけ。ならば違った 切り口から、と再度提出。やはり「う〜ん」とうなるばかりでOKは出ません。そんなやりとりを繰り 返しているうち、こちらが「う〜ん」とうなっていると、上司が涼しげな顔で、

「もう、出つくした。これ以上無理......。コピーはそこからだよ」。

 

すぐに思いつくものは、誰かの受け売りだったり、どこかで見聞きしたもの。あれこれひねってみたと ころで、人の心は動かせない。脳みそから汗が吹き出るくらい考え、頭の中が干上がるほど、ああでも ない、こうでもないを繰り返す。この作業をしなければ、自分の考えにたどり着くことはできない。わ たしは、そう理解しました。

 

脳にたっぷり汗をかいた後、ふとやってくる何気ないもの。言葉なのか、映像なのか、あるいは空気 感のようなものなのかはわかりませんが、この中に、ヒントや答えが隠れています。これは、間違いな く自分の内側から出てきたもので、奇をてらうことなく、心に刺さるものです。

 

最終的に提出したキャッチフレーズのことは、よく覚えていませんが、このとき上司が発した言葉は、 わたしのみぞおちあたりにストンとおさまり、折につけわたしを導いてくれます。

仕事とは、労力を提供し対価を頂くもの。想定外の出来事や、理不尽と思える事柄にも、数多く出会 います。やりたい仕事がすぐに回ってくるというものでもなく、夢だけでは前に進めないときもありま す。こんなはずじゃなかったと負の感情にとらわれてしまうと、手も足も出ません。そうなると「もう 無理」です。

 

でも、仕事はそこからが本番。本来持っている自分の力を試し、発揮するチャンスなのです。もし、四 方を壁に囲まれ、絶対絶命のピンチがやってきたら、必死でジタバタしましょう。みっともないくらい もがいた頃、すぐ近くに絶好の抜け道が見つかるはずです。ジタバタしなければ気づくことのなかった 大いなる発見こそ、仕事の醍醐味です。

 

このような話を思いたったのは、つい最近、わたし自身が「もう無理かも」と感じたからです。つい 2週間程前に突然職を失い、求職するもことごとく断られ、この先どうしたものかと暗闇の中を歩いて います。ただ今回、語尾に「かも」がついており、潔さがありません。まだ、脳に汗をかいていない証 拠です。「かも」が消えてなくなるまで手を尽くしたあとに、本番が始まるのだと、覚悟を決めました。

 

いま、夢に向かって仕事をしている人、これから社会に出ようとしている人、または、わたしのように半分諦めかけている人へ。もし、「もうこれ以上無理」と感じることがあったら、脳みその力をあと 0.5mm振り絞ってみてください。それは、ほろ苦い痛みを伴うかもしれませんが、脳みその体力は確実に 向上します。

仕事は、人生を左右します。人生は、自分自身のもの。諦めても、ふてくされても、逃げても。何を しても自由です。ならば、汗をかいてみるのもひとつ。万策尽きたら、脳みそに汗をかきましょう。未 知なる力がわいてくるはずです。

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