【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
フィジーでの体験が私を変えてくれた
岐阜県 細 江 隆 一 50歳

「働き方改革」が叫ばれている。この言葉を聞いていつも思い出すのは、フィジーでの体験。現在の 私の「働き方」を作ってくれたのは、あの体験があるからこそ、だ。

フィジーを訪れたのは、もう20年近く前になる。私は教師になって6年目。まだまだ若手で、ばりば り仕事をしていたころだった。朝は7時に登校。帰宅が午後10時過ぎは当たり前。遅いときには午前零 時を回ることもあった。そんな生活を送っている最中、JICAの主催する「教員派遣事業」に推薦さ れ、フィジーに3週間出かけることになった。

私としては軽い気持ちだった。初めての外国旅行だったので、「いろいろ観てこよう」「写真もたくさ ん撮ろう」「英語力をアップさせてこよう」と、「やりたいリスト」も作った。気分は完璧にツーリズム による海外旅行だった。

そのフィジーで忘れられない体験をした。現地の中学校を視察した折りのことだ。私たち教員が訪れ ると、先生達が歓迎してくれた。授業を視察した後、その先生方と軽い食事会をしたのだが、その中で ある女性とこんな会話をした。

「あなた、何時まで仕事をしているの」。

「そうですね。早くて午後9時。遅いと夜中12時を回ってから帰ります」。

「オーマーイゴッド! ユーアークレイジー!」。

彼女はそう叫んで、私を質問攻めにした。

「どうしてそんなに遅いの。あなたは仕事が出来ない人なの」。

「家族は何て言っているの。ここフィジーでは家族が第一だから、そんなに遅く帰るのはありえないわよ」。

「もっと早く帰ることはできないの。年をとってから後悔することになるわよ」。

その一つ一つにたじろぎながら、私は答えしていった。

「遅いのは仕事が沢山あるからです。授業の準備とか、生徒指導とか」。

「私は一人暮らしなので、家族はいまのところいません」。

「年をとってからはわかりませんが、若いうちにばりばり働きたいと思っています」。

その答えに彼女は満足せず、別れ際にもこう言った。

「フィジーにいる間に、働き方を変えた方がいいわよ」。

よほど私の働く現状が気に入らなかった様子だった。

フィジーから戻ると、現実が待っていた。朝7時に出勤し、午後9時過ぎ以降に帰宅する、あの生活 である。だが、私の中で大きな変化が起きていた。それは「ユーアークレイジー!」という彼女の言葉 だった。自分の働き方はフィジーからすると「狂っている」のだと知り、何とか工夫して早く帰れない か、と考えるようになったのだ。私は自主的に「働き方改革」に取り組むようになった。

結婚し、子どもを授かってからはますますそれを意識して働いた。日単位で育児休暇を取得したり、帰 宅時刻を午後9時から7時に切り上げた。その分、短時間で仕事をこなすから、無駄な時間を切りつめ た。ぼーっとする時間、同僚と馬鹿話をする時間を削り、「勤務時間は仕事時間」と割り切った。本来の 勤務時間は午後8時から午後5時までなので、それに近づけるよう工夫をしたわけだ。

いまもその働き方で日々勤務している。家族はうれしがっているし、私もまた充実感を持って勤務し ている。若手やベテランの中には遅くまで仕事をする人も多いが、「私は私」と割り切り、「お先に失礼 します」と言って、職場を後にしている。フィジーで彼女が教えてくれたように、家族を大事にし、老 後の自分も考えるようになったからだ。

仕事だけが人生ではない。仕事は人生のほんの一部でしかない。それをフィジーでの体験が教えてく れた気がする。

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