【 奨 励 賞 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
K型人間のススメ
滋賀県 矢 口 渡 59歳

私は今春、長年勤めた会社を定年退職した。そして、人生百年時代と言われる中、新たに仕事を探し、 チャレンジすることにした。そんな経験をした者から、若い皆さんへのアドバイスだ。やっかいな先輩 だと思われないように、できるだけ短時間で話を終えるので、よろしくお願いしたい。

ひとつの会社で勤め上げて、その業界に対する知見や作法を身に付け、スペシャリストとして前半を 終えたときは、充実した社会人生活だったと感じていた。「社会人」というよりも、「会社人」傾向が強 かったことは、反省点ではあるが、日々やりがいを感じて仕事をしてきた。ただ、退職して新たな仕事 を探し始めてつくづく実感するのは、同じ仕事コミュニティの中だけにいたので、幅広さがないことだ。

縦軸を仕事への深さ、横軸を仕事の幅広さで表した場合、ひとつの仕事に没頭した「I型」だったわけで あるが、ゼネラリストの「T型」(ないし「逆T型」)や、二刀流を標榜する「H型」などとは違い、専 門バカで終わったともいえる。しかしどうだろう。スーパースターならいざ知らず、一般人では、何事 も深くすれば深くするだけ幅広さは失われるし、幅を広げれば広げただけ、浅くなるものではないか。

新しい仕事のコミュニティに入ると、今まで見えていた景色も変わってくる。具体的には、企業論理だ けでなく公共の立場から考えるとか、違う業界からの視点、などがあげられる。私は、今回新たにチャ レンジした仕事を通じて、社会や世界を見る幅が、確実に広くなり、多くのことが見えてきたと感じて いる。従って、広さを持つことも重要である。ただこの体験が、前の仕事で見えていたら、もっと太い 「I」ができていただろうか?きっと、忙しさにかまけて、まともに受け止められなかっただろう。やは り、人は大きなショックがないと、そうそう変われないものである。そこで、軽い気持ちで仕事の幅が 広がる「K型」人間を提案したい。

「K型」の定義は、本業をしっかり持ちつつ、軽く斜に構えて副業を備え持つ、ちょうどまっすぐな 線から枝分かれしていくKの形をイメージしている。ひとつのことに、のめりこみ過ぎない分、新しい アイディアの創出につながりやすくなる。ゼネラリストの「T型」のようなしっかりした自分の得意分 野を持つことは、まず重要だ。2つの本業を持つ「H型」を目指すことも悪いことではない。ただ、こ れらは道が険しい。それならば本業を持ちながら、副業を主業と絡ませて斜に構えて持つ「K型」こそ、 新しいポリバレントな働き方ではないか。

同じパワーで2つの仕事を持つと、相反した場合、悩みが深くなるだけである、従って、本業は持ち つつ、真面目すぎない程度の副業を併せ持つ。その副業が本業と違う位置から出発し、クロスして絡む ことによって、シナジー効果も生み出すのが、「K型」の特性である。またもし、本業をリタイアした場 合も、次の仕事は副業からスタートすればいい。その観点では、セカンドライフの補完機能にもつなが る。まじめすぎない肩の力を抜いて取り組むため、だれにでもチャレンジが容易だ。

これからの日本は、少子化で生産労働人口の少なくなる中、もっとも大切なのは生産性向上であると 考える。新しい働き方の担い手として、「K型」人間を目指してほしい。

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