【佳作】

【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
頑なに。
東北芸術工科大学 企画構想学科 津 田 陽 向 22歳

「頑張る」と聞くと、「なにかに耐えている」印象がある。それは、漢字からの印象かもしれないし、 日常生活でこの言葉を耳にするときの印象かもしれない。頑張っているひとは、みんななにかに耐えている。

 

殻に閉じこもって、じっと丸まって、耐える。本当はやりたくない、でも大丈夫。本当はもう疲れて いる、でも大丈夫。だってみんな頑張っているし、私だけ「頑張れません。」なんて、言いたくない。そ のように、自分が本当に思っていることや、感じていることを表に出さないようにすることを「頑張る」 だと思っていた。少し前までは。

 

大学2年生の春、初めてきちんとした「自己分析」を経験した。所属する学生団体の活動として高校 生へ向けたキャリア学習プログラムを行っており、高校生と大学生が班を組み、対話を通して進路意欲 を高めあう。そのコンテンツとして、大学生がスケッチブックをスライド代わりにして人生経験やその 当時の感情を本気で語る時間があるのだ。それに向けて、私も自己分析を行った。

 

分析や客観視といったことは、得意だった。日頃から何に対しても「なぜ」「なぜ」と深堀していくこ とが好きだったし、頭を使って考えることが好きだった。とにかく一人で黙々と自己を分析し、納得の いくものが完成したので、さっそくプログラムのディレクターに提出した。

「当時のつらかった感情って、そんな綺麗な言葉でまとめられるようなものじゃないでしょ。まだま だ過去の自分から逃げているよね。」

もしかしたら高評価をもらえるかもしれないと思っていた私は、驚いた。驚いたし、初めはなにを言 われているのかもよく分からなかった。過去の自分から逃げている?私が?

 

それからは、想像もしていなかった壮大な自己分析が始まった。自分一人が頭で納得できている言葉 でも、ひとに話を聞いてもらってみると、主観的な自分の、素直な感情を掘り起こされた。「これってど ういうこと?」「こことここ、言ってることが矛盾してるけどこれってどうしてだろう?」と、考えたこ ともない問いをこれでもかというほど投げてもらった。何時間も私に向き合ってくれるひともいた。

 

私はあのとき、確かに頑張っていた。なにに耐えていたか。それは、自分が本当に思っていることや、 感じていることを表に出さないようにする殻に全力でぶつかり、突破する痛みだ。

 

その痛みに耐えたおかげで、大きな気づきが一つあった。それは、私が得意としていた分析や客観視 は、自分の感情の波を制御して、自分の心を守るために培われたものだったということだ。悲しい思い やつらい思いをしなくて済むように、自分と感情を切り離すことをおぼえたのだ。

 

今までは自分の心を守るためだけに、自分のネガティブな感情をほぼ無意識に否定してきたし、他者の行動や感情に「なんで?」「本当に?」と疑問を持ったりしてきた。今度はそれを、自分と他者を幸せ にするために活かしていきたい。感情の波が穏やかなおかげで、今までたくさんの人と関係性を築くこ とができた。そして他者の感情を、頭で理解して冷静に分析できるように因数分解するお手伝いができ る。かっこつけた綺麗な言葉ではなく、本当の感情を言葉として引き出すお手伝いをしたい。本当の意 味で自分と他者を信じたいからこそ、疑問や違和感を問いに変えて、どう頑張りたいのかを一緒に考え たい。

 

そんな私には、仕事を通じてかなえたい夢がある。それは、自分も相手も「頑張る」ことが楽しいと 思えるコンテンツを作り続けることだ。現在はマーケティングの、とくに生活者心理をデータ分析する 分野に興味があり、様々な企画運営の場面でその興味を生かしている。また、対話型の分析ももっとで きるようになりたくてコーチングの勉強も始めた。

 

夢を絶対にかなえるべく、私は仕事を誰よりも頑張ろうと思う。

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