【佳作】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
婚活化する職場、職場化する家庭
神奈川県 牡 丹 端 午 22歳

結婚について自分の会社が介入してくるというのは、僕にとってちょっとしたカルチャーショック だった。就職活動をして、そして実際に社会に出て気付いたのだが、最近は結婚し子供を育てることを 会社の方針として推奨されたり、もっとスゴい所だと社内恋愛を勧められたりするケースもさほど珍し くはなくなってきているらしい。なるほど確かに、所帯を持った社員、特に男性は家族を守るべく仕事 により一層の責任を感じて、退職という選択肢はなかなか取りづらくなるだろうし、社会に対して少子 化対策を行っていますよ、というアピールにもなる。企業にとってはいいことずくめなのだろう。ただ その結果として、職場が「婚活化」しつつあるとすれば、僕はその流れに違和感を覚えずにはいられな い。

ある僕の親友の周りには、「良い会社に入って、良い人を見つけて結婚して、子どもを産んで...」とい う未来設計のもとに就職活動をしている人が少なくないらしい。無論何を期待して入社するかはその人 の自由であるし、それにとやかく文句をつける気もないが、企業の側までそれを推奨してしまうと、職 場は最早婚活パーティみたいなものになってしまう。いや、婚活パーティなら参加者が皆、結婚を望ん で来ている分まだいい。企業の方針として職場をパーティ会場にしてしまうと、僕の親友の周りにいる ような人々はいいかもしれないが、結婚を全く望んでいない人たち(どの職場にも今時こういう人はい るはずだ)はとても肩身の狭い思いをするだろう。かといって会社としての方針である以上、完全に無 視するというのも難しい。なんとかその場をやり過ごそうとしつつも、流れに逆らえないままなんとなく結婚、となる人も存在してしまうのではないだろうか。そんな風に本意でないままそこまで思い入れ のない相手と契約を交わし、出来上がった家族の中で起こるのは、皮肉なことに「家庭の職場化」とい う、企業で起きている現象と真反対とも言えるものである。「あの人にはもううんざりなんだけど、子ど ものことを思うと離婚はね...」みたいに溜息を漏らす、中年に差し掛かったくらいの女性を見聞きした ことはないだろうか。「仕事は面倒だけど生活のためには仕方ない」「夫/妻との生活は面倒だけど子ど ものためには仕方ない」起きていることの本質は、全く同じもののように僕には見える。ただ後者につ いては看過できない大きな問題があって、それは「自分がいるせいで仕方なく離婚を我慢している親に 育てられた子ども自身がどうなるのか」というものだ。自分がいるせいで両親は不幸になっている、自 分が両親の足枷になっていると感じながら多感な時期を過ごす少年少女の苦悩は、想像に難くないだろ う。

社会に向けたアピールとしての少子化対策、社員を辞めさせないための鎖作り、大いに結構。しかし その一方で本来安寧の地であった家が職場化してしまった、元々結婚を望んでいなかった人たちのこと、 そして職場化した家庭で呪縛としての自覚を持ちながら育った子どもたちの苦悩は、決して捨て置いて はならない存在だ。結婚みたいな重大な契約は会社の方針なんかに従ってするものではなく、この人な ら自分の喜びも悲しみも全て分かち合っていいと思える相手がいて初めて考えられるはずだし、子ども を育てるということも、現代社会に産み落とされる我が子は幸せになれるのか、もしそれが怪しいなら、 その社会の現状を変えるために自分に何が出来て何をすべきなのか、というのを追求し尽くして初めて 決心できるものだと思う。

職場化した家庭に引きずり込もうとする、婚活化した職場からの怨嗟の声に耳を貸す必要はない。絶 対に。

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