【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
笑顔を声に乗せて AIができない仕事
東京都  高 崎 はるか  44歳

この春、私は職を失いました。

正確に言うなら、派遣社員として務めていたコールセンターに更新しない旨を告げられ、そのまま期間満了を迎えたのです。この仕事に就いて、ちょうど2年でした。


私にとって、コールセンターは初めての経験でした。事務職を希望したものの、なかなか仕事が決まらず、派遣会社のスキルアップ講習をうけたのがきっかけです。採用先では、慣れない仕事に緊張の連続でした。自分のできなさ加減にひどく落ち込んだこともあります。

でも、やめずに丸々2年、同じ職場で仕事を続けることができたのは、周りの人が助けてくれたからこそ、と思います。

特に、直属の上司でもあるチーフには、本当にお世話になりました。こんなことで……というような、ほんとに恥ずかしい勘違いや失敗をしてしまったこともあります。何度もチーフに頭を下げました。しかしチーフはそのたびに「気にしない気にしない、そのうち慣れますよ。がんばって」と励ましてくださったのです。職場全体に、フォローしあうという雰囲気がありました。


2年の間には多くの失敗を経験しましたが、それよりも、お客様に「ありがとう」と言われたときが嬉しくて、記憶に残っています。チーフや他のスタッフからの励ましとフォロー、そして、お客様の「ありがとう」が、私にこの仕事の醍醐味を教えてくれました。もしかして、これが私の天職ではないかしら、と自惚れる日もありました。


だから、半年ごとの契約更新の際、これで終了です、と告げられた時は、すごくショックで、家に帰って一人、涙が流れるのを止めることができませんでした。

新しいAIシステムが入り、コールセンターの人員を一気に削減するらしい、と職場では噂になっていました。テレビや新聞では聞いていたけれど、AIに仕事を奪われるなんて、そんなことが自分の身に起こるとは、全く思いもよらないことでした。


そして、職場を去る日がやってきました。シフトで働く派遣社員の退職ですから、送別会などもなく、別れはさっぱりしたものです。でも、終業間際、チーフから、今日が最後となる社員一人ずつに、お菓子と手紙が渡されました。

「二年間頑張ってくれて、どうもありがとうございました。高崎さんには親切で丁寧な良いお仕事をしていただきました。困ったり、焦ったりしているお客様に優しく寄り添って、笑顔を感じさせるお仕事ぶりに、本当に感心しました。一緒に働けなくなるのが残念です。健康に気をつけて、これからも頑張ってください。」

ひとり一人に、心のこもった手書きの手紙でした。「笑顔を感じさせる仕事ぶり」。そんな風に見ていてくれたんだ……胸が熱くなりました。


幸いにも、私は日を置かずに新しい派遣先が決まり、今はそこで働いています。希望したとおり、コールセンターです。まだまだ不慣れで、我ながらたどたどしい仕事ぶりだと思います。でも、今度の職場でも、日々、ほんのちょっとだけ、昨日より良いご案内ができた!と思えるようになってきました。

そんな毎日の中で、自分がこれからもチャレンジし続け、守ろうと決めたことがあります。

わたしがお客様のためにできること、ひいては、会社にとって良い貢献になること。私にとってそれは、相手の様子を想像しながら、丁寧に向き合ってご案内をすることではないか、と思います。お客様に、優しさと親切を心がけよう。たとえ相手に見えなかったとしても、笑顔を声にのせて、働こう。

これが、AIに職場を奪われても、仕事は奪われなかった、私の誇りと希望です。

私はこれからも、このチャレンジを続けていこうと思います。願わくば、私にチーフがいてくれたように、すべての働く人に、そのチャレンジを認め、励ましてくれる環境があってほしい、と強く願っています。

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