【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
珠算教育を通して
埼玉県  吉 冨 快 斗  16歳

私は珠算塾でアルバイトをしています。小学2年生から5年間珠算を学び、高校入学と同時にスタッフとしての仕事を始めました。そろばんは、その原型を紀元前まで遡るほど、長い歴史を持つ計算器具です。日本においても室町時代に伝来したとされており、長きにわたり数学教育の一端を担ってきました。小学校学習指導要領の算数の履修項目において、そろばんは戦後から現在まで約70年間学ばれ続けています。しかし計算機の普及により、現代では実用的な計算の手段としてそろばんが利用されることはほとんどありません。珠算や珠算式暗算の競技人口も減少しています。それでも、珠算を学びにくる生徒たちがいます。特に、幼稚園生や小学校低学年の子どもたちの入塾が目立ちます。入塾してくる子どもたちは皆そろばんに興味を持ち、楽しそうに珠を弾いています。そのような姿を見ながら珠算を教えていると、私の中に責任感のようなものが生まれてきました。せっかく珠算を学んでもらうのだから、彼らにもっと珠算の素晴らしさを、数学というものの素晴らしさを知ってもらいたい。そう考えるようになりました。

私は現在、埼玉県の県立高校の理数科という学科で勉強をしています。理数科では理数分野に特化した教育が行われているため、他学科に比べて数学を深く学ぶことができます。私は授業を通して、物事の本質を理解することがいかに大切であるかを学びました。表面的なテクニックを磨くことに意味は無いのです。そして私はその考え方を、珠算教育にも応用したいと考えました。もちろん私は高校生という身分であり、生徒に対して数学の全てを教えられるほどの能力はありません。しかし、生徒が珠算を学ぶ中で生まれるさまざまな疑問の一つひとつに対して、小手先のテクニックを教えるのではなく、できる限り本質的な答えを、あるいはそのヒントを教えることは可能です。私はそれから現在まで、生徒に対してそのような指導をすることを心がけています。もちろん小さな子どもたちにとって、それらを理解することは簡単ではありません。何度も繰り返し説明することもしばしばあります。しかしその反復の先にある理解は、その子どもたちにとっての進歩です。そしてそれは、私の大きな喜びでもあります。

このような珠算教育を通して、私には、教育に携わるという将来の夢ができました。数学と物理学に興味があり、まずはそれらを深く知るために高等教育を受けて、研究をしたいと考えています。私の担任の先生は、大学院で分子生物学を専攻し、修了してから教員になられたそうです。先生は授業で、一つのポイントをその背景から詳しく説明してくださいます。それだけではなく、研究をしていく上での心構えや、高等教育や学問に対する姿勢についてのお話もしてくださいます。私の理想とする先生です。子どもたちに深い学びを提供できるような教師になるためには、まずは自らが学問を知らなくてはなりません。私はこれからも勉学に励み、それを珠算塾の生徒にも共有しながら、成長していきたいと思っています。

私にとってアルバイトは、お金を稼ぐための手段ではありません。自己の成長を他者に還元しながら、互いに利益を受け合い助け合う。知識は分けても無くなりません。知識の流れによって、皆が利益を受けることができるはずです。私はこれからもこの流れを大切にし、価値のある仕事をしていきます。

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