【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
心のふれあい
あすなろ会  畔 上 桃 子  23歳

いよいよ来年に迫った2020年東京オリンピック。五輪開催が東京に決まった際の招致団の最終プレゼンテーションはとても印象的なものであった。「お・も・て・な・し」のスピーチである。おもてなしの心は私たち日本人の誇るべき文化であり、このたった一言の中に日本人の思いやりの精神が詰まっている。しかし、この「おもてなし」にとって重要といえる人と人との心のふれあいが今後、廃れていってしまう可能性があると私は考える。

AI化が急速に進む現代において、今後10年〜20年間で人口の半分もの仕事が人工知能にとって代わられるといわれている。AIの発達により私たちの生活はより便利なものとなり、生産効率の大幅な向上や、人件費の削減、少子高齢化に伴う労働力不足の解消など、今起きているさまざまな社会問題解決を見込むことができる。しかし裏を返せば、私たち人間の仕事がどんどん減り、人を相手にする仕事もロボットを通したなんとも無機質なものとなってしまうだろう。

現在私は信用組合の職員として働いている。主に窓口業務に携わっており、お客様と対面でやりとりをする機会が多い。依頼された手続きをただ淡々とこなすだけでなく、お客様との何気ない会話中で何か悩みや相談を引き出すことができることもある。窓口に足を運んでくださるお客様の中には高齢の方も多く、「ここでおしゃべりしていくと元気が出るの。いつもありがとう。」というお言葉を頂けたこともあった。しかしこの金融機関の窓口業務もAIによって淘汰されてしまう可能性のある仕事のひとつである。窓口で受ける業務のほとんどが ATM やネットバンキングで手続き可能となり、店頭接客さえもロボットにとって代わられるといわれている。確かに単純作業に使われる人件費を削減し、より業務の効率化を図ることができるだろう。では顧客満足度はどうだろう。対面でのやりとりがない、システム上のやりとりで果たしてお客様は数ある金融機関の中でいったいどこにブランドロイヤルティを見出すのだろうか。

私の勤めている信用組合はAI化の進む現代においても、お客様との対面のやりとり重視し、地域密着型の金融機関としての役割を果たしていくことをモットーとしている。人によっては「このご時世になんてアナログな」と思う人もいるかもしれない。しかし、私は人と人との心のふれあいを何よりも大切にしていることこそ、今後金融機関としてお客様に選ばれ続ける重要な要素になり得ると考える。お金は生きていくうえで必要不可欠なものであり、それは今後も変わることはないだろう。人々はこの大切な財産をどこに預けたいと思うだろうか。AI化が進むにつれ、システムはより高度で質の高いものとなるだろうが、同時にそれはどこの金融機関も同じことで、サービスの幅に多少の違いはあっても他社と大きく差別化を図っていくのはかなり難しいはずである。そんな中でより確固たる信頼を勝ち取るには「人」なのではないか。誠心誠意お客様と向き合い、悩みや不安をくみ取りそれぞれにあったサービスを提供する。こういった人と人との直接のやりとりこそが信頼関係を築くうえでとても重要なポイントになると考える。「この人のいる金融機関なら信頼できる」といったように「人」で選んでもらえてこそ、これからも長く支持してもらえる金融機関になれるのではないだろうか。私は「あなただから安心してお願いできる」こんなことを言ってもらえるような、お客様の心に寄り添えるそんな職員を目指したい。

社会は常に目まぐるしく変化し続けている。AIによる変化もまた当然のことなのかもしれない。しかし変化の中にでも変わらず守り続けていかなければいけないことがきっとある。「おもてなし」といったように人と人との心のふれあいを大切にする日本の誇るべき文化は、この先も私たちが守っていかなければならない。

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