【 入 選 】
私が実現したい仕事の夢は、障がいを持つ方が気兼ねなく受診できる歯科医院が日本中で増えることです。
私が専門で学び、実践してきたのは、「障害者歯科」です。なじみがない言葉だと思います。歯科医師には、それぞれ専門分野や得意分野がありますが、法律で「標榜科」が決まっており、看板に掲げても良いのは「歯科、小児歯科、口腔外科、矯正歯科」だけです。そのため、一般の方が目にすることはありません。
障害者歯科は障がいがある方を対象とした学問・診療分野です。どのような障がい名・病名をお持ちの方でもどうぞ、という間口の広さ、また、歯科疾患名で決めることのない全人的な対応をするという決意が表れていると思います。先天性の疾患、障害者手帳をお持ちの方のみに限ることはありません。例えば発達障害の方が話題になる前、手帳を取得できるようになるずっと前から対応を研究、実践しています。
しかし、障害者歯科を大学で学ぶ歯科医師も、病院歯科で障害者歯科診療をされている歯科医師も、開業されると、障害者歯科を前面に出すことはありません。これは、「障害者歯科は、保険診療の中では採算性がない」と言われているからです。もちろん、障がいのある方が自費診療をされても良いのですが、なかなか口腔ケアが難しいので、自費診療をお勧めすることは困難です。そのため、「障がいのある方にも対応しています」という歯科医院の院長先生にお話をお聞きすると、採算性度外視のボランティア感覚であり、地域貢献として、と言われます。また、他の診療で補っているとも言われます。これでは、せっかく障害者歯科を学び、診療していた実績を活かすことができません。また、障がいのある方が気兼ねなく近隣の開業歯科医院を受診する環境とは言い切れません。
ここで疑問がわきました。本当に、採算性がないのでしょうか。勉強をし、経営を勉強している歯科医師に相談し、障がいの当事者やご家族にヒアリングをしました。その結果、無駄を省き、計画性をもって開業すれば、障害者歯科も保険診療で黒字経営になる可能性が高いという結論に達しました。
今年6月、障がいや病気のために歯科受診にためらいのある方だけを対象とした歯科医院を開院することができました。まだまだ周知も足りておらず、始まったばかりで採算性があると大手を振って言うことはできません。しかし、手応えは感じています。
私には夢があります。障害者歯科診療で黒字経営にします。そこから、「障害者歯科は保険診療では採算性がない」という常識をくつがえします。それを見れば、日本中で障害者歯科診療をボランティア感覚ではなく通常の業務として行う歯科医院が増えてくることでしょう。その結果、障がいを持つ方が気兼ねなく受診できる歯科医院が日本中で増えることになります。これが、私が開業することで実現したい、実現可能だと考えている夢です。