【 入 選 】
〜学生の就職活動を手助けして感じたこと〜
私の仕事は、機械系の「職業訓練指導員」です。主に高卒以上の若者に機械関係の知識と技術を教える仕事です。この仕事の中で重要なウエイトを占めるものに「就職斡旋」があります。初夏の頃、私は毎日のように就職面接試験の指導を行います。模擬面接です。「自己PRをしてください」「志望動機を教えてください」から始まり、「仕事で壁にぶち当たったとき、あなたはどうしますか?」「海外勤務を命じられたらどうしますか?」「希望部署に配属されなかったらどうしますか?」など、それぞれ学生が受験する会社の性格に合わせて様々な質問を投げかけます。
もちろん練習を始めた頃は、学生は満足に答えることは出来ません。そこで私は「この質問は自己分析が出来ているかを問うているよ」「集団面接では他の人の意見を聞いて自分の意見を言わなきゃね」と質問の意味やアピールの方法を詳しく手ほどきしていきます。私の部署には指導員が他に4名おり、それぞれが違う質問をして学生たちを鍛え上げ、「一発必中」で内定を目指しています。私の部署では学生と企業とのマッチングに重点を置いて「一発必中」の就職活動を行っているのです。優秀な学生には手がかかりません。彼らは私たちの指導を素直に受け入れそれを自分でアレンジできる能力を持っています。問題は成績下位の学生たちです。A君もそんな一人でした。
A君はとても素直なのですが人見知りでなかなか初対面の人とうまく話すことが出来ません。コミュニケーション能力で劣っていたのです。しかも志望企業は、A君には少々ハードルが高いように思われました。しかしA君は、私の面接指導にたどたどしく答えながら、「先生、メモを取ってもいいでしょうか?」と熱心に質問内容のメモを取っていました。私の質問にうまく答えられないことが多いのですが、そのたびにメモを取っています。いつしかメモはノート数ページにまで及びました。素直な彼は30分の面接練習で膨大なメモを取り、家でそれを暗唱するまで口に出して読んでいたのです。その成果が出たのでしょう、A君は志望する企業に見事内定しました。「先生!内定したよ!」とはじける笑顔で内定報告に来たA君の顔は忘れることが出来ません。
A君のように何か能力的に劣る部分を持つ学生たちも、自分たちのベストを尽くそうと頑張っています。だからこそ私は彼らが面接練習を申し出てくると、他の用事を後回しにしても面接指導を優先させるのです。そうしてそんな彼らが希望の企業から内定をもらえたら、手のかからない学生の何倍も私は嬉しいのです。表現がおかしいかもしれませんが「産みの苦しみ」に似ているように私は思います。学生と二人三脚で勉強をやってきたように、就職活動も二人三脚でやっていく。これは私の考え過ぎかもしれませんが、一緒の道を歩んできた学生諸君には愛情に似た感情が湧くものなのです。
今年で職業訓練指導員の仕事も18年目になりました。常に入れ替わる学生にとまどいを感じながらも体当たりでぶつかっていきます。すると彼らも本気で答えてくれるのです。そのぶつかり合いの経験が、訓練期間の最後の関所である就職活動で見事なコンビネーションとして花開くように感じられます。私も中堅と呼ばれる勤続年数になりましたが、若い学生たちと接するときは常に新しい気持ちを持つことを大事にしています。そこには成績が優秀か否かは関係ありません。日頃の授業での真剣勝負に加え、休憩時間での雑談や面談で彼ら一人一人の人格を尊重し、冷めた気持ちではなく熱い心で接することこそ私の仕事の肝であると感じています。