【 佳 作 】

【テーマ:私が実現したい仕事の夢】
社長の仕事
広島県 山口義博 40歳

「大きくなったら社長になる!」

子供の頃にただ漠然と抱いていた夢。あれから何十年も過ぎ40才になった私は、正に「社長」になろうと起業準備している。自分の会社を創りたい、社長になって裕福な生活を送ってみたいという気持ちは成人してからも継続していたが、果たして何の業種が儲かるのか、何をすれば成功するのか。

そもそも社長の仕事って何?

起業しようと思っても、考えれば色々な迷いや隔たりが出てくる。本当に私に務まるのか。倒産したら、家族や友人親戚に多大な迷惑をかけてしまうかもしれない。5年先も見えないと言われるこの日本経済の中で生き残って行く事が出来るのか、などと常に自問自答をしながら自信が持てず、結局何も行動出来ない自分がいた。

28才の時、交通事故に遭い神経麻痺を起こし左手に後遺症が残ってしまった。医者にも、もう一生腕を動かす事は出来ないでしょう!と、はっきりと言われた。これで私も障害者の仲間入りか…、これから先50年位かつて自分が障害者を見て思った気持ちを、これからは俺が返されるんだな…、俺の人生は終わったな…と、絶望した。左利きだった私は、字を書く事はもちろん箸を持つ事も出来ず、ボタン掛けや荷物を抱える事も容易に出来ないこの体に、苛立ちを覚える事ばかりだった。

そんな時テレビで手話のドラマを放送しているのを偶然見て、これだ!と思った。手話は手のリハビリになるし、指を動かすことで頭も鍛えられる。今は思い通りに動かなくても、いつかこの手が動いてくれる日が来るかもしれない。小さな望みだが賭けてみた。

書店で手話のテキストを購入し独学で手話の勉強を始めたが、本だけでは動きが無いので表現に限界がある事に気付いた私は、この町に手話サークルはないのかと思い市役所を訪ねた。しかし、帰ってきた返事は実にそっけなく「ありません!」の一言。

えっ…?無いの?市役所ですよね?そんなはずは?と思いながらその場を後にしたが諦めきれず、後日もう一度市役所を訪ねると「ありますよ!」の返事。

あるじゃないか!この前の人はなぜ「ありません」と言ったのか。そこで健常者と障害者の世界がうまく繋がってない事を知った。

手話サークルに行くと、今までのイメージの違いに一変した。みんな楽しそうに手を動かしながら話をして笑っている。聴覚障害というハンデを逆手にとっている印象だ。手が動かないだけで絶望していた自分とはえらい違いだ。

彼らは見た目は一般の人と全く同じ。違うのは音のない世界で生きているというだけ。見た目が同じだけに彼らは理不尽な思いも沢山経験していて、話を聞いているうちに確信した。この社会は健常者と障害者が一緒の世界に住めていない事を。健常者は障害者の事を「かわいそう」と言うが違う。

障害者はかわいそうではない。人は自分より上だと思った人間には「うらやましい」、自分より下だと思った人間には「かわいそう」と気づかない内に人を上下差別している。もちろん出来ない事に対して手助けは必要だが、それ以上は必要ない。手助けラインをどこに引くかが難しい所だが、正しくラインが引く事が出来たら立派な社会に変われるだろう。

私は正しいラインを引ける会社の社長になる。

医者に治らないと言われたこの腕も、死に物狂いで続けたリハビリで5割程度の動きを取り戻した。努力をすれば、夢は必ず実現出来るはずだ。

私は、健常者も障害者も関係なく皆が対等に居られる社会を実現したい。会社は利益を生み出す場所だが、金儲けだけが会社ではない。莫大な利益を上げる会社より小規模でも人と人とが手を繋ぎ合い、互いに笑顔で暮らせる社会を創る会社が必要だ。そして、本当の意味で社会と会社を1つにまとめ、世の中に役立つ仕事をするのが「社長」としての仕事であると信じている。
「私はそんな会社の社長になる!」

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