【 佳 作 】

【テーマ:非正規雇用・障害者雇用で訴えたいこと】
非正規雇用でいること
長野県 派遣の人 40歳

40になって、派遣で勤めていた仕事を辞めた。

坦々と手続きを済ませ、いつものように一つの仕事が終わる。30で派遣を始めて10年、時々思う。自分に価値はあるのだろうか?と。

それから職安で見つけた正社員募集に申し込み、見習いで入社。派遣で働いていた時よりも少ない給料で働いた。働き始めて3日目。ほぼ同時に入社した20代の青年が、派遣の女性を罵る場面に遭遇した。

人に指示するばかりで、真面目に働こうとしない青年を、派遣の女性が注意した時だった。

青年は、自分より年上の女性を睨み「派遣のくせに、偉そうにするな」と吐き捨てた。近くにいた社員に怒られ、青年は仕事に戻っていった。女性は俯き、怒りに震えていた。私は彼女に「貴女が正しいと思うよ」と声をかけると、彼女は数回頷き、作業に戻って行った。そんな言葉一つで、彼女の怒りが収まるわけがない。私は、“この苛立ちで彼女が大きなミスをしませんように”と祈った。一つでもミスすれば、派遣作業員を大きく傷付ける。こんな時なら、なおさらだ。

なぜ青年は、この女性に対し、このような態度をとったのか?

それは、彼女が派遣社員だったからだろう。青年の中で、社員候補で入社した自分は、彼女より偉いという法則が出来上がっていたからだろう。

よく「うちの会社は、社員も派遣さんも同じだから」という、前置きを聞くことがある。本当に同じなら、必要のない言葉だと思う。私はこれを聞くと、“自分と貴方は違うのよ”と立場に差を付けられたように感じていた。

正社員候補で入った会社は、1ヵ月で辞めた。辞め際に、若くして所長になった37歳に、「40ってぎりぎりだよ。うちもぎりぎり40までが社員候補だから。さっき面接に来た53歳のおじさんは、取らなかったよ。この先、大変だと思うよ」と釘をさされる。もっともな意見だと思う。

深夜のテレビで政治家なのか元政治家なのか知らないけれど、「40代50代は、正社員では働けない。これから正社員になるなんて無理」と断言していた。

確かにそうだと思う。どんなに求人情報の欄が年齢不問でも、実際は、若者を求めていると思う。それは当たり前だし、仕方のないことだ。

その結果、特に中高年は、働きやすい派遣から抜けられない。とにかく、生きていくためには、働かなければならないし、会社は正規では雇ってくれないのだから。

そんな現実が、自分の価値を下げ始める。

この10年間、頑張れば頑張るほど虚しかった。一生懸命働いても、見ている人はいない。私への評価は30円だった。時給が30円上がった。それを「よかったね」と微笑む社員が憎かった。

そして、頑張れなくなった。仕事は好きだったし、それまで、たくさん我慢してきた。

頑張れなくなったのは、最高につらかった。

「どっかで、正社員目指そうと思う」と同僚に言うと、「やってみたら」と少し笑って応援してくれた。

私が仕事を辞めることを、心から残念に思ってくれたのは、派遣の同僚一人だった。

もしも、派遣、非正規雇用という働き方が、もっと尊重されていれば、仕事に幸を感じることがあると思う。正規雇用が難しいからこそ、もう少し非正規雇用という働き方に理解を示して欲しいと思う。

働き方は違っても、同じ人間なんだから、何をされたら哀しいか、何を言われたら傷付くかは知っているはずだと思う。

戻る