【 佳 作 】
「えっと、障害っていうのはどこが…」面接でまず尋ねられるのがこれです。そう、私は内部障害者なので一目見ただけではどこに障害があるのかわからないのです。車イスや松葉杖を使っているわけでもなく、介助者が同行しているわけでもない、一体どこが?と思われるのです。
「心臓です」と短く答えると「ペースメーカーですか?」と返ってきます。「いえ、ペースメーカーは入れていません」そこまで言うと相手は、「では特に配慮することは無いのでしょうか?」と戸惑い気味に聞いてこられます。重い物が持てない、立ち仕事は無理、長時間労働も難しい…要は心臓に負担がかかりそうなことは避けなくてならない旨を伝え、「妊婦さんや高齢者と同じです」と言います。
こうして運良く採用していただいても職場ではほとんどの場合、よく理解してもらえません。もちろん職場にもよりますが、どう扱っていいかわからず簡単な仕事や単純作業を「ただ座ってゆっくりやってもらったらいい」と言われたりもします。職場にすれば障害者雇用率を充足するために雇うのであって健常者と同じ様な期待はされていないのです。だから多くの場合、正規雇用ではなくパートや契約社員などの非正規雇用なのです。
私はそういう働き方は望んでいません。なので「配慮は必要ですが、できる限り他の方と同じ様な、或いはそれに近づける形の仕事をさせてもらいたい」と言います。それはハローワークの障害者窓口の担当者の方に必ずお話して、それを受入れてくださる職場を紹介してもらいます。それでもいざ採用されるとこうなのです。正規雇用を希望しても「そうなると残業もあるし忙しいと体もきついですよ」と言われます。それに「障害者年金をもらっておられる方は逆にあまり頑張って働きたくないともおっしゃったりしますしね」と。私は年金ももらっていないのでそれでは困ります。パートや期間雇用の仕事をいくつか経験し、なんとなく「もう無理に理解してもらおうとしたり、なじもうとするのはやめよう」と思いかけた時でした。ある職場で隣同士の席になった女性が理解を示してくださり、何かとフォローしてもらいつつ、こちらも歩調を合わせて仕事ができつつありました。身近に理解者がいると心強いものです。難しい仕事に、チャレンジする意欲も湧いてきました。
ところがある日、退出前にロッカー室で二人になり、その方がおっしゃったのです。
「こんな事言うのは駄目だと思うけど言わずにはいられないから言わせて。私よりあなたの方が元気そうなのにどうして私ばっかり体力のいる仕事をしなくちゃならないのって思う。もっと芝居でもいいから、しんどそうにしてくれたらいいのに」私にとっては大打撃でした。自転車通勤していたことも「メチャ元気」と言われました。自転車に乗るのは何度も電車やバスを乗り換えたり、乗車中に座れなかったりすると体力的にきついので、それならゆっくりでも自転車の方が、「自分の体調に合わせられるから」だと伝えました。
「言いにくいことを言ってくれてありがとう」私がそう言うと彼女は、「ひどい事言ってるのはわかっているけど…」と泣いていました。
私は障害者だからという理由で権利を主張したり甘えたりしたくないと思っていました。だから多少しんどくても笑っていたり平然としていたり。それが目に見えない障害を余計に周囲から見えにくくわかりづらくしていました。独りよがりな頑張り方だったのです。
数か月後、彼女は妊娠し、日増しに大きくなるおなかを抱えてつらそうでした。「やっとわかった。こういうしんどさが続いているのやね。わかっていたつもりでわかってなくてごめんなさい」彼女は私の心臓の負担のことを「妊婦になって初めて実感できた」と言ってくれました。妊婦も高齢者も障害者も一緒に働ける風通しの良い職場が増えます様に。