【 佳 作 】

【テーマ:仕事・職場・転職から学んだこと】
次代を担う若者へのメッセージ
福岡県 井邑勝 82歳

31年間の英語教師のあとボランティアの日本語教師としてコロンビア・ブラジルの日系社会で四年、お隣りの中国の大学で2年、日本語を教えてきました。こうした国内外での仕事を通して私が学び考えたことが、次代を担う勤労青少年が生きる上で参考になればと、一般の部のエッセイに応募する次第です。

まずは人生百年の時代。大まかに区分すると零歳から就職するまでは自分さがしの時代。就職して定年退職するまでは自己実現の時代。退職後は余生ではなく、それまでに培った経験と技能を活かしていく人生の完成期である。

こうした思いから私は退職後にボランティアの日本語教師として海外で働く道を選びました。蟻とキリギリスの童話ではありませんが、「あせらず・おごらず・いばらず・くさらず・おこたらず」の人生五訓を胸に秘めて将来のことを考えて仕事に励んで欲しい。

次に人間の価値は何か。お金持ちになりたいとか、有名になりたいとかは人間の根源的な願望であろう。そうした願望があればこそ向上心・探究心・好奇心が生まれるのである。

多くの若者はそうした野心や願望を叶えるために努力していると思われる。それは個人の人生感や幸福感に関ることで、それはそれなりに結構なことと思う。だが、住居も食べ物も十分にない南米の絶対的貧困層といわれ、黒人村や多国籍企業のダム建設で山間の僻地に追いやられた50人一家族のインディオの村を訪問して、余りに醜い現状に何かしら罪の意識に苛まれたものです。地球を一つの村と考えたときこれでいいのかと。そんなとき現地で活動する青年海外協力隊員の姿を見て、お金持ちになってもただ自分の願望を満足させるだけでなく、その人の一生の価値は人様に責献した総量で計られるべきだという思いに至ったものです。

次に仕事の国際化と言葉。年功序列・生涯雇用から実力本位の雇用制度に変わり、また、企業の海外進出に伴って、若者が海外で働く機会が増えてきた。青少年期に積極的に海外で働くことを奨めたい。日本人の明晰な頭脳・美意識・繊細さ器用さ・時間を守る几帳面さ・勤勉さは世界一と言っても過言ではないから。天然資源は豊富なのに十分に活用されていない発展途上国の産業育成に、若者の知恵と活力は欠かせないと考えるから。

海外で働くために問題になるのが外国語。日本人は外国語の「聞く話す力」が弱いので外国人とコミュニケートできないと言われている。が、英語教師だった私の経験からすると知らないことを「罪」とする欧米人に対し、日本人は知らないことを「恥」とするあまりコミュニケートできないから英語が通じないのである。また、英語が苦手な人が中国語の天才であったりして、兎に角、すべての人間は外国語を習得する能力があるのです。何語でもいいから少なくとも一か国語は習得するのが常識の時代になってきていることを自覚して努力して欲しい。

最後にスランプに陥ったとき。職場の人間関係や仕事のことで悩み、どう生きていったらいいか分からなくなったときは、自分が生まれてきてからの人生のひとコマひとコマをできるだけ細部にわたって思い出してみること。誰にどのようにお世話になったか。誰にどのように迷惑をかけたか。誰にどのように報いてきたか。その時々の会話や仕草や行動などを具体的に思い出してみること。そうすると意識の底に埋もれていた自分の人生を改めて発見し、経験し直し、新しい心構えで未来に立ち向かうことができるものです。

以上、82歳の今日まで生き抜いたきた私の人生体験から考えたことを、次代を担って生きていく若者へのメッセージとして送る。

戻る