【 努力賞 】
【テーマ:私が今の仕事を選んだ理由】
30後半にして立つ
大阪府 うえのたかし 37歳

「子の曰わく、吾れ十五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順|みみしたがう。七十にして心の欲するところに従って、|のり|えず」これは論語の有名な一節です。これを現代語に訳せば「先生はいわれた。私は十五歳で学問に志し、三十になって独立した立場を持ち、四十になってあれこれと迷わず、五十になって天命をわきまえ、六十になって人のことばがすなおに聞かれ、七十にして思うままにふるまってそれで道をはずれないようになった」となります。私にとってこの言葉は模範とすべき人生そのものだと言えます。

私は大学卒業後、自分が何の仕事をしたいのか、どの仕事が自分には合っているのかわかりませんでした。そして、これでもない、あれでもないと何度も転職を繰り返してきました。もちろん、お金のため、生活のためと割り切って働くこともできましたが、私は自身自分に合った仕事に就きたかったのです。そうして何度も異業種の転職を行い、30代中ごろに差し掛かった時、ようやく自分が身を置くべき場所を見出しました。それが高齢者福祉の分野です。

ちなみにかっこいいことを言っていますが、実際は私のように30歳半ばで、履歴書を見ると、前職と関係のない職種がズラッと並んでいる。どこが雇ってくれるでしょうか?結局、転職を繰り返した末、残っていたのが高齢者介護の仕事ぐらいだったというのが本当のところです。でも、この仕事が今まで就いたどの仕事よりもやりがいを感じているのも本当です。

人は年を取るにつれて、身体も頭も自分が思うように動かなくなります。中には脳梗塞の後遺症などで、ある程度若くても体の自由が奪われる方もおられます。移動する、食べる、排泄する、お風呂に入るという、日常生活の当たり前のことができなくなるのです。

そのような方たちの生活を支援する仕事は、もちろん最初はできるのか不安でした。しかし、高齢者施設の職場体験を行い、そこの利用者から「ありがとう」と言われた時、自分の存在が初めて人の役に立っていると実感し、仕事の喜びを感じました。そして自分はこの世界でやって行こうと決めました。

現在、私は介護老人保健施設で介護の仕事を行っています。もちろん、仕事は主に肉体労働です。私と同年代の人達は、ほぼ何らかの役職に就き、結婚し家庭をつくっています。お給料も私の年齢の平均年収を考えるとずっと少ないです。また職場は私よりずっと年下の方が先輩です。

でも私は後悔していません。なぜならこれまで色々な仕事を経験し、最終的に自分自身納得して今の仕事をしているからです。人はその個々の性質と与えられる社会環境において、誰もが最初から望んだ仕事を得られるわけではありません。何も考えないまま親や他者から与えられる人もいれば、今の仕事に疑問を感じつつも割り切ってしている人、早くから自分のなりたい仕事を選びそれに就く人、そして私のように自分に合った仕事を選ぼうとする人など、さまざまです。私はそれを見つけるのに時間がかかりました。でも、これまで費やした時間は決して無駄ではありません。仕事をする上に置いて必要な能力であるコミュニケーション能力や問題発生時の冷静さなどは知らず知らずに身についています。

私を孔子と比べるなんておこがましいことですが、30代後半にしてようやく自分の立ち位置を見つけました。仕事をしながら通信制の学校に通い、今年社会福祉士の試験に合格しました。私は高齢者の福祉に貢献する仕事をしたいという想いに迷いはありません。人より遅いかもしれませんが、私の人生はこれからが色づき始めるのです。

だってそう思う方がこれからの自分の人生、希望を持って過ごせるでしょ。ショーペンハウアーも言っています。「人生の幸福にとっては、われわれのあり方、すなわち人柄こそ、文句なしに第一の要件である」と。

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