「転職しようと思っているんです」
後輩がいっしょに飲みに行きませんかなんて珍しく言うから、何かあるのかなと思っていたら、案の定、辞めたいという相談でした。どこへ転職するんだい?とたずねたら、まだ決めていないとのこと。希望は、給料が高くて、休みが多く、仕事が楽で、やりがいがあることだそうで、私は思わず、持っていた生ビール大ジョッキを落しそうになりました。
「悪いけど、そんな会社がもしあったら、きっとその会社は受付のところで、入場料をとるだろうよ」
そう、私が言っても、なんだかピンときていないようでした。
すべてを満たした会社なんてありません。会社に限らず、人もそうだし、人生でも、すべてのやりたいことができるはずもない。若い人が、自分の未来に夢を描くのは自由です。でも、その夢を実現するためには、何を獲得し何を捨てるかを選ばなくてはならないのです。
私は接客の仕事をしていました。休みは少なかったけれど、そこそこ給料はもらっていました。でも、子供が産まれ、子供とすれ違いの日が増えるようになり、カミさんが
「もっと子供と休みが合わせられるような会社に変わったら?」
と提案してくれました。その選択肢の結果は、給料が下がるという条件がありました。でもカミさんは、家族の時間が増えるなら、減った給料なんて私がやりくりでなんとかすると豪語しました。そして現実、下がった年収でもカミさんは私に貧乏たらしい思いを一切させずに知恵を使ってがんばってくれました。おかげで、家族との時間は増え、お金のかからない公園に行って、朝から晩まで遊んだりしていました。
そして、仕事もだんだんといろいろなことを任されるようになり、給料もあがりました。自分のこれからの人生に一番必要なものは何か。それをしっかり考え、そのために、得るもの、捨てるものを考え、道を進めばいいと思っています。