一般社団法人 日本勤労青少年団体協議会 会長賞
「日本とドイツのサラリーマンがいちばん違うのは有給休暇の収得率だよ」
ドイツに単身赴任をしていた父は、しみじみと言った。ドイツでは休暇を取る権利が法律で保障されていて、ほとんどの企業がその権利を尊重しているのだという。
日本人の父は、ドイツでも働き方は日本流で、夏休みでも長い期間休みを収得するのは気が引けて、数日休みを取るのがやっとだったらしい。オフィスでは女性従業員に対する社会保障は手厚く、安心して子どもを産み、出産後も仕事を継続しやすい環境が整っているそうだ。消費税が19%にのぼるドイツだが、公的年金制度も充実していて老後も安心して生活できる。ドイツ人は現役世代に働きやすい環境、弱者にも心強い保障が整っているので、税率が高くても納得しているのだそうだ。
日本の税制と社会保障の問題はもはやこれまで通りというわけにはいかなくなってきている。日本の社会保障は、福祉の比重が低いと言われている。おそらく、経済成長期は自立した個人のための「自助」がその理念になっただろうが、これからは「共助」に変えていくべきだと思う。日本にはいにしえから互譲互助の精神があった。日本を震撼させた東日本大震災の痛切な体験をして、私たちはあらためて相互扶助の大切さを思い知った。共同体や家族の絆によって、苦しみから救われるということに気がついたのだ。
「働く」ということは、単に自身の生活のためだけ、あるいは私利私欲のためではなく、結果的に他利になる営みだと私は考える。自らが働き、税金を払い、そして結果的に弱者に分配されていくことは皆が幸せに暮らしていくために必要なことだ。
ひところ、孤独死や不明高齢者の問題が取りざたされていたが、経済的に豊かになった日本で個人が社会の基本的活動単位になっていく時代にこそ、ますます社会保障の公的な役割は重要になってくる。悲しく痛ましい事態が起きないように、次世代を担う私たちは自身が「働く」ということの本質に対峙して、新しい制度を構築していかなければならない。
ドイツの父の家を訪れたときのことだ。隣に住む年老いた夫婦は、自宅で介護を受けていた。ドイツでは、コミュニティーがしっかりしていて、地域で弱者を見守る仕組みができている。福祉のサービスを受ける側の身になってあらゆる制度が整えられているために、これまでの生活に制約を受けることなく快適に過ごす権利が守られているのだ。私は医学生として、将来、医師となったときに、ドイツで実感した地域で支え合う医療を日本でも具現化したいと思っている。
予期せぬ事態が生じたときでも、人は人によって救われる。私は昨年の夏、東日本大震災被災地の視察と現地の病院を訪れる機会を得た。最大被災地の石巻で医療崩壊のなか、石巻圏22万人のいのちを預かる指揮官となった石巻赤十字病院の石井正医師の話をうかがい、東北の地で多くの人に出会い、さまざまなエピソードに耳を傾けながら、働くことは人が生きることを支えるのだということを痛感した。地域医療は、行政とも連携し人々の健康を支える重要な基盤である。これが力強いものであればあるほど、災害などの不測の事態が起きた時でも、素早く適切に対応できることを実感した。
特に女性の医師や看護師による丁寧できめ細やかな患者に対する実践は、心打たれる印象深いものだった。私も女性ならできる、女性にしかできない働き方を志したい。これまでよりずっと、これからもずっと、女性ならではの働き方は求められるだろう。働き方の差別ではなく、働き手の区別として、私ができることをしっかりとやっていきたいと思う。誰もが健康で幸せに生きられる毎日のために私はその一助を担えるひとりの女医となりたい。