【 入 選 】
「出産しても、私、仕事がしたいんです!」
今から四年前、大きなお腹を抱えた私は、会社の社長にそう打ち明けた。
私の頭には、育ててくれた母の姿があった。家事と育児をしながら、フルタイムに夜勤まで勤め、愛情をたっぷり注いでくれた母。今や重役となり、同僚や沢山の後輩から厚い信頼を受けて働いている。それは「働くお母さん」として、素敵に輝く理想の姿だった。
だが周囲の友人からは、「出産したら暗に退職を勧められる」「休暇を取ろうとするとあからさまに迷惑顔」なんて話を耳にした。男女平等、女性の活躍、そんな理想とは未だ遠い現実。「仕事も育児もしたい」そんな願いも、理解がない、制度がない、前例がない、そんな理由ではねのけられることがあると知っていた。
だから打ち明けたときは、不安もあった。実は「前例がない」ことは知っていた。20人足らずの小さな会社には、出産して復帰した女性社員はいなかったのだ。
すると社長は言った。
「ええよ。お前の好きなように働け!」
二つ返事と満面の笑み。安堵と共に、未来が拓けた瞬間だった。
社長は有言実行だった。私が希望したこと、例えば子どもに合わせた在宅勤務や時短勤務など、前例のない制度がぽんぽん出来た。
「ない制度は作ればいい。社員の成長が会社の成長。どんどん伸びろ!」
社長の力強い言葉。それだけでなく、社員全員が理解を示してくださり、応援してくださった。周囲の愛情に包まれて出産を迎え、病院には社長や専務、先輩社員がかけつけてお祝いしてくださった。
そして始まる育児。とりわけ強く実感したのは「周囲の理解」がどれだけ有り難いかということだった。子どもというのは思い通りにいかない存在だ。会議の日に熱が出る、病気で数日の自宅待機。そんなとき、会社の仲間は私と子どもをセットで認識するようになっていた。「会議は出なくていいし、報告は代わりにやるよ」「明日も在宅がいいんじゃない?連絡あればいつでも電話して。お子さんのそばにいてやって」私が言うより先に、こちらの状況を想像し、働きやすいよう促す心遣い。担当するお客さんまでもが「子育てされてるし、あまり時間が遅くならないようにしますね」と言ってくださるようになった。それが泣きたいほど有り難く、同時に「期待に応えたい、より良い仕事と心遣いで恩返ししたい」と思うようになった。
思いやりを実感し、自分も心配りを意識するようになって気づいた。「相手の立場を想像する」と、普段の仕事も格段にスムーズに進むことに。会社の仲間、後輩、お客様の状況。自分を取り巻く人々の動きを想像し、ある程度予期して準備ややり取りをすると、突発的なことにも対処できる。また私が「仕事と育児の両立」を宣言したことで、その分ご迷惑はかけたけれど、周囲に「思いやりの空気」が満ちてくるのが分かった。風邪気味の社員に早めの帰宅を促したり、「子どもの演奏会があるから早退したい」と上司が言い出したり、「家庭や私生活の充実が、仕事の充実につながる」ことがどんどん体現されるようになった。互いを思いやり、業務にはグッと集中し、密の濃い仕事で応える風潮が当たり前になった。
きっと、会社の規模が大きくなればなるほど、難しい部分もあるだろう。けれど私は「仕事も育児も頑張りたい」という女性を心から応援したい。そして自分一人だけではなく、ぜひ周囲を巻き込みながら、夢に向かって進んでほしいと思う。子どもを中心として「思いやりの空気」が満ちたなら、仕事も家庭も良い方向に進むはずだ。輝く女性には、周囲を輝かせる素晴らしい力がある。
私は今、お腹に二人目の子どもがいる。次の子が生まれても、仕事も育児も全力で頑張りたい。夢は「仕事も育児もこなす、日本一輝くお母さん」だ。