【 入 選 】

【テーマ:私が今の仕事を選んだ理由】
あの子の笑顔
大阪府 ありさ 34歳

私は今、学校の先生をしています。先生になる前は、青年海外協力隊として開発途上国でボランティア活動をしていました。

私が協力隊として活動していたミクロネシア連邦という国では、政府がうまく機能しておらず、学校の先生にお給料が支払われない状態が続いていました。先生達の中には、違う州や国へ行ってしまったり、転職したりして、突然先生が学校に来なくなってしまうこともあり、子どもたちはどんどん学ぶ機会を失っていました。

私は、活動の合間を利用して、子どもたちに日本語や日本の文化について教えるようになりました。すると徐々に家と職場の行き帰りや、休日に散歩をしている時などに「コンニチハ」「ゲンキデスカ!」といった、聞きなれた日本語が耳に飛び込んでくるようになりました。片言の日本語で嬉しそうに話しかけてくれるこどもたちに「わたしはげんきです。ありがとう!」と答えると、彼らは目をキラキラさせながら現地語でこう言いました。

「日本語を教えてくれて、本当にありがとう。勉強って、楽しいね!」

私はこれを聞いて、泣きました。今までこんな気持ちになったことはありませんでした。私のこころは、この瞬間に、自分がこれからどう生きていきたいかを決めたのだと思います。

私は日本にいた頃、学校の先生になりたいと思ったことは一度もありませんでしたが、青年海外協力隊として開発途上国で暮らすことで、生まれて初めて「教育」について真剣に考えるようになりました。

私が活動していた国では、ほとんどの子どもたちが公立の学校へ通っていました。しかし、前述の通り、突然「学ぶこと」が困難になる状況が見受けられました。裕福な家庭の子どもたちは、グアムやハワイ、アメリカなどの学校へ留学し、きれいな英語を身につけて帰ってきます。その子たちには、観光客を相手にする仕事がありました。留学後そのままグアムやアメリカなどの都会で就職し、そこで新しい生活を送る子どもたちもたくさんいました。しかし、ほとんどの子どもたちが留学などはできず、小さな島から外に出ることなく一生を終えていきます。学んで身につけることの差が、こんなにも人の一生を大きく左右する。日本にいる時には知らなかった現実をつきつけられました。

途上国では「学ぶこと」が厳しい状況にあることを目の当たりにしたからこそ、私たち先進国が、その状態を提供できるように協力していくことが大切であると痛感しています。子どもたちの明るい未来のためにも、学習するチャンスが平等に与えられる社会になることを願っています。そして、自分もその手助けができるように、これまで経験してきた貴重な経験を一人でも多くの人に還元していきたいといつも感じています。

現地での活動中は、国籍も言語も宗教も異なり、物事の優先順位も全く違うことから、考え方のずれが生じてすれ違うことも多々ありました。しかし、彼らの素晴らしいところは、どんな状況でも人生を楽しむ術を心得ている、ということです。新しい価値観を彼らからたくさんもらい、私は今まで、広い世界のほんの一部しか見えていなかったのだということに気付かされました。

私は今の仕事が大好きです。どんなに生徒が大きなトラブルを起こし毎日終電になっても、どんなに頑張ってもこころを開こうとしない子どもに出会ってもこの気持ちが変わらないのは、やはりあの時一点の曇りもないまっすぐなまなざしで、勉強することが楽しいと教えてくれた、あの子の笑顔があるからです。

人生を歩んでいると時には辛いこともありますが、協力隊の日々が私のこころの大きな支えと指針になっています。貴重な経験をさせて頂いた感謝の気持ちを行動に変えて、これらをできるだけ広く多くの人たちに還元していくのが私の役目であると感じています。

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