【 佳 作 】
もう勉強は嫌だ、こんな田舎から出ていきたい、その一心で私は専門学校を卒業後、20歳で県外の会社に就職した。初めは戸惑うことも多かったが、優しくサポートしてくれる上司やお互いに励まし合える仲の良い同期に恵まれ、私の社会人生活が始まった。
そのうち一人で任される仕事も増え、気付けば後輩を指導する立場になっていた。上司からも後輩からも、頼られることが嬉しくて必死で仕事に取り組んだ。期待に応えようと、毎日が一生懸命だった。
ところが、社会人3年目の半ば頃から少しずつ焦燥感を感じ始めた。業務中だけでなく、友人や恋人と過ごす時間でさえも“こんな所で何してるんだろう”“この先どうなるんだろう”と悶々と考えるようになった。
勉強が嫌だから、都会で暮らしたいから、それだけの動機で就職した私はここにきて、何の為に働いているのか、将来どうなりたいのか、が全く見えていないことに気付いたのだった。毎日何か満ち足りず、もっとやるべきこと、本当のもの、充実した世界があるのではないか、といった考えで頭が一杯になってしまうのだ。
丁度その頃、業務中に体調を崩し早退、そのまま数日休んでしまったことがあったが、その間、私がやるべきだった業務は他の人が滞りなく済ませていてくれた。結局今まで頑張ってきた仕事は全て“私でなくてもよかった”のだと思い知らされ「もし私がこのまま死んでしまったとして、悲しんでくれる人はいるのかもしれないけど、困る人はいない」とも考えるようになった。
もちろん友人や先輩に相談してみたが、誰とどんな会話をしても私の気持ちはすっきりしなかった。
“みんなそんなもんだよ”“大多数の人が好きなことやれてるわけじゃないでしょ”“働かなくていいなら働きたくないよ、宝クジ当たらないかなー”…。
そういうことではなかった。悩み続けた私はいつの間にか、起きている時間の大半を仕事に費やすのだから、そこが満たされていなければ生きている意味がない、と思うようになっていた。
その後も悩み続け、自問自答を繰り返した結果、自分なりに納得できた答えは「オンリーワンになる」、だった。今まで具体的な目標を持たなくても頑張れたのは、頼りにされる喜びがあったからだ。“私がいい”“私でなくては”そう言ってもらえるような働き方がしたいと思った。そしてオンリーワン=手職人という単純な発想から様々なスクール体験に通い、その中で一番相性が良かった整体師になることを決めた。
その後スクール卒業と同時に25歳で転職した私は、もうすぐ30歳になる。この5年間を振り返ると、会社員として過ごした5年間よりも自信を持って充実していたと言える。転職前は、仕事を変えても同じことを繰り返してしまうのでは…と不安もあったが、自分で納得して決めたことだからか、仕事を与えてもらうばかりだった会社員の頃に比べると、より自主的に考えて動き、行動の一つ一つに責任を持って働けているからだと思う。
毎日をもっと充実させたいと思い私は働き方を変えたが、趣味や休日を充実させる為に働く人、家族を守る為に働く人、人間関係が好きで働く人…、皆様々な理由で働いていて、やりがいも様々である。もちろん選択を迫られてやむなく、もしくは何となく就職し、そのままやりがいを持てずに働いている人もいるだろう。それでも、私が転職を経験したことで思うのは、何か自分自身を納得させられるような理由を持って働いたほうが毎日はより楽しくなるし、自分も強くなれるということだ。
私自身、この先色んな壁にぶつかったとしてもないがしろにせず、よく考えて選択、決断していこうという勇気と自信がついた。誰のものでもない自分の人生をもっともっと楽しんでいきたいと思う。