【 佳 作 】

【テーマ:仕事・職場・転職から学んだこと】
傍 楽
神奈川県 ラボーナ 31歳

「Why dose Japanese people work so hard?」
「…I don't know why.」
10年前に、このようなやりとりをしたのを今でもはっきりと覚えている。

私は大学在学中にWWOOFを活用しながらオーストラリアを周遊していた。WWOOF(ウーフ)とは、World Wide Opportunities on Organic Farmsの略である。ようは、賃金を得ることはできないが有機農場で経験を得ることができ、なおかつ宿泊・食事が付いてくる交換条件のシステムをいう。食事と宿泊場所を提供する農家をホストといい、「力」を提供する側をウーファーという。「力」の提供とは、農家での手伝いがメインであり滞在する農家により異なっている。

初体験のウーフは、アサートンという町で養蜂場の手伝いだった。観光客やアジア人のいないオーストラリアの片田舎は、時間と人がゆっくりと流れていた。養蜂場のオーナーの性格はオープンだった。オーナーの家の庭を歩いていると遠くから蹄の音と共に馬が寄って、私と目線を合わせてくれた。日が沈むと、暗闇と共に満点の星空が私の周りを覆い尽くした。そこには夜空ではなく、宇宙が広がっていた。私はアサートンの町も養蜂場のウーフも気に入っていたので結果的に2ヶ月滞在することになった。オーナーは、ウーファーを積極的に受け入れているため、他国の方と一緒にウーフをすることが何度かあった。

ある日、ドイツ人の女性が養蜂場にやってきた。私はオーナーに指示された作業を終わらせていたので、彼女に「何か手伝えることはあるか」と聞いた。彼女は「気持ちはありがたいけど今頼まれている作業は私の作業であってあなたに手伝ってもらう必要は無い」と答えた。私は、わかったよ、というそぶりを腕だけで見せると、「あなたに手伝ってもらうと私のウーフの意味がなくなってしまう。それは、交換(食事・宿泊⇄力)にならないでしょ」と続けた。その後、彼女と私はあまり会話をしなくなった。

彼女が農場を去った後、オーナーに一連の話をして、自分の意見を述べた。「私のいらん気配りで気を悪くさせてしまったし、彼女が大切に考えていたウーフの経験を奪おうとしてしまったのかな」と話すとオーナーは、少し間を置いてから「Why dose Japanese people work so hard」と私に聞いた。私は少し考えて、というよりも考えたふりをして「…I don't know why」と答えた。

オーストラリアでウーフの経験をした後は、大学を卒業し、日本で一般企業に勤めた。その後、大学院に通いながらNPO法人でボランティア活動をして、今では障害者の就労支援をしている。少しではあるが人生の経験を積んだ今なら、オーナーの質問に答えられるような気がしている。

日本人は、「困った時はお互い様」「持ちつ持たれつ」の感覚が強い。それは、日々の生活・教育・労働の中に脈々と存在している。「はたらく」という言葉には「傍(はた)を楽(らく)にする」という意味も含まれている。傍とは、同僚や後輩、上司かもしれないし、会社全体かもしない。あるいは、一緒に暮らしている家族かもしれないし、自分の暮らしている地域かもしれない。その傍は各人が自由に決めればいい。となると、働く意味は、自分の中にあるのではなくて、社会に落ちているものとなる。強引な話かもしれないが、自分の視野を外(社会)に向けるだけで、働く意味はいくらでも見つけることができるのだ。そう思うと私は個人の利益やメリットを前提に労働をするのではなく、日本人の長い文化継承の習慣として傍(はた)を楽にしたい。ごく自然に淀みなく人の力になっていきたい。

「Why does Japanese people work so hard?」
この場を借りて10年越しに養蜂場のオーナーに伝えたい。
「It's helped considering the time as well as the profit of the individual, and I'm making to work by Japanese culture and custom be formed(日本人の文化・習慣では、働くことを個人の利益だけではなく、回わりを助けることによって成立させているからだよ)」

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