【 佳 作 】
夫から専業主婦業を解雇され約2年、残された私と娘の生活は一変しました。私が仕事を始めたことにより一緒に過ごす時間はぐっと減ってしまいましたが、その目まぐるしい日常の中にこそ、今まで見落としていたような小さな発見と小さな幸せが溢れていました。
娘と手をつなぎ歩く保育園の帰り道、その30分は短いようで離れていた時間をつなぐ濃密な時間です。いつの日からか、寝る前にはどちらからともなく、お互いの目を見て声を合わせ「きょうもげんきにすごせました、ありがとう」と言うようになっていました。
私は今、主婦向けの月刊誌でライターとして働いています。誌面に出てくれる方、情報を提供してくれる方はみなさん主婦の方です。仕事をしている方もいますが、その大多数は専業主婦の方です。
皆さんに共通しているのは、家事や子育てに一生懸命取り組んでいて、かつその能力がとても高いことです。働きたくない、楽をしたい、という方とは一度も出会ったことがなく、むしろチャンスがあればもう一度働きたいと思っている人が多い印象です。でも、様々な家庭の事情を踏まえて、今出来るベストな選択は専業主婦だと判断しているのだと思います。
例えば、料理の話しで自宅を取材させていただいた方は、自閉症のお子さんを持つお母さんでした。お腹の中にいる時からすでに障害があることを宣告され、会社勤めを諦めざるを得なかったのです。お子さんが幼稚園に入るまでの約4年間、日中はほぼ2人きりの時間を過ごしていたそうです。お子さんが幼稚園に行っている間の数時間、やっと自分の時間を持てるようになり、その限られた時間を利用して、得意の料理についてなどの取材を受けるようになったそうです。取材を受ける心境に至るまでには、想像できない程の苦悩を乗り越えてきたのだと思います。
他にも、社会経験のないまま若くに結婚、立て続けに出産し、家庭という狭い世界にこもりノイローゼ気味になっていた方は、持ち前のセンスを活かし、自分でコーディネートした服を着て誌面に出ることによって、子供がいてもまだまだ輝けるのだと自信を取り戻したそうです。
こういった方々の生き様を誌面で紹介する訳ではないのですが、ご縁があって一緒に誌面作りを共にし、そこで一歩踏み込んだ話しを聞かせてもらえることは、私がこの仕事をやっていて良かったと思う瞬間でもあります。
夫婦生活が破綻してしまったことは深く反省すべきことなのですが、長年の専業主婦業を社会復帰のブランクと捉えず、小さい子供がいることをハンディと捉えず、すべてを経験として活かせるこの仕事をいただけていることに感謝すると同時に、それを支えてくれている保育園の先生方や娘のお友達、孫に惜しみない愛情を注いでくれる実家の両親にも感謝の気持ちでいっぱいです。
これから先も様々な局面で働き方の選択を迫られることがあるかもしれません。その時にどんな選択をしようと、どんな形であっても、出会った人たちの想いをつなぎ、世の中に伝えていけるようなことを続けていきたいと思っています。