【 努力賞 】
【テーマ:仕事・職場・転職から学んだこと】
夢の途中で一歩、寄り道
札幌医科大学 木元蓉子 19歳

今の自分は1年前に憧れ、夢見ていた自分。この仕事は、誰かにとってやってみたい、立ってみたい場所。そう思うと辛くても頑張れる。学生という職業に身を置きながら家庭教師と飲食店のアルバイトを掛け持ちしているが、人生はじめてのアルバイトにありつけるまでに3か月間の就職氷河期を経験した。特に飲食店での仕事は今までに入ったことのない、全く新しい世界だった。

初めて働いてみてわかったのは、「仕事」というのは本当に大変だということ。やりたいことだけやって生きていけるほど、世の中は甘くないと実感した。親戚に会えば笑顔でもらえるあの1万円を稼ぐのに、こんなにたくさんの汗を流し、歯を食いしばらなければならないのだ。月末には時給の計算ばかりして、まさに自分の時間をお金で売っている感覚だった。

もう一つはプロ意識。保育園の遊び時間や高校の文化祭でやってきたような「お店屋さんごっこ」ではないのだ。お客様にとっては社員もアルバイトも関係ない。完璧にこなして当たり前、それ以上のことを先にやって初めて仕事ができたというのだ。素早く上品にこなす周りの社員が本当に格好いいと思った。たとえばお客様に水が欲しいと思わせてはいけない。グラスが半分になったらこちらから注ぎに行く。子供用のいすありますか、と言わせるのではなくお使いくださいと言う。メニューの渡し方、料理の置き方、コース料理のタイミング、すべてが気配りだった。

しかし最初は失敗するのが不安で、自分に自信がなく、お客様の前に出るのが怖かった。オープン前は気が重かった。せっかく好きでこのアルバイトを選んだのにオーダーミス、ハンディの使い方が分からない、料理名が覚えられない。怒られて、怒られて、怒られて、でも、こんなに本気で怒ってくれるのは、本当はできるはずなのに何でできないのと期待してくれているからでもあるのだと思うと嬉しさ半分、悔しさ半分だった。若いうちは体が資本というが本当にいつもオーバーワークで、その日の自分はその日に使い切っている毎日だった。店内はあんなにおしとやかなのに裏は戦場だ。頭で考えていても体がついていかないし、体が先に動けても頭がついていかない。それでも初めてコース料理を一人で任された日、初めて個室を担当させてもらえた日、初めてお客様の前で北京ダックの実演をした日、とても嬉しかった。もっともっと頑張りたいと思った。

アルバイトを始めてから1年が経った今、春には新入社員に仕事を教えたり、40代・50代の社員に仕事の指示を出したり、残業が当たり前で定時に帰れる日などないが、この道を経験して心からよかったと思う。実際に経験したからこそ店員としての気持ちがわかったこともそうだが職業柄、相手の気持ちを察し汲み取る癖もついた。自分が外食したときは帰る前に皿をまとめるようになったし、レジでお金を払うときには自分の出した金額を言うようになった。 たとえアルバイトだとしても自分の選んだ道だから、誇りをもっていたい。キツくて体力も限界で、こんなの辞めてやると思ったこともあったが、もう少し、あとちょっとだけ、と気が付いたら後ろに高く積み上がっているものがあった。嫌なことが少しもない人生なんてつまらない。けれど、嫌なことしかない人生もあり得ない。どうせアルバイトだし、一生の仕事にしたい将来の夢は全く別の職種だし、という気持ちで適当にやっていた方が確かに楽かもしれない。しかしここで辞めたら実際本当に働き始めたとき、長く続けられない人になりそうで嫌だった。頑張れない自分が一番嫌いだから。何年か経って本当の夢にたどり着いたとき、今ここで出会った人が、仕事が、時間が、絶対に活きてくる。私がアルバイトとしてやっているこの仕事を、隣の社員は一生の仕事として選んだのだ。全く違う生き方がそこにはあったのだ。

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