【 努力賞 】
【テーマ:「世界と日本」海外の仕事から学んだ事/日本の仕事から学んだこと】
海を渡って気が付いたこと
北星学園大学文学部 目黒亜依 22歳

2014年4月。私は生まれて初めて日本を離れ、「ワーキングホリデー」という就労ビザを片手に、単身カナダへ渡った。21年間の人生の中で最も大きな決断であり、挑戦であった。カナダで過ごした1年間、それは、自分自身と向き合いながら過ごした貴重な時間であったとともに、これから大学を卒業して社会に出る私にとって「働く」とはどういうことか、深く考えた時間でもあった。

現地に到着してからの3ヶ月間、英語での生活に慣れるために語学学校に入学した。その3ヶ月間で英語の力はついたものの、卒業を間近に控えた時、徐々に焦りを感じた。「働かなければ生活が出来ない」という焦りと、「この語学力で仕事が見つかるのだろうか」という2種類の焦り。そんな焦りと不安を抱えたまま、私の職探しはスタートしたのだった。

現地での職探しは、日本のスタイルとは大きく異なる。日本のような履歴書は売っていないため、自分でパソコンを使って作成し、気になったお店があればそこに飛び込んで履歴書を渡す。気に入ってもらえたら面接、そして採用。あまりにも日本とは異なるそのスタイルに、私は完全に怖じ気づいていた。その結果、履歴書を持って家を出たものの、渡せずに帰ってくる、という初日の苦いスタートとなった。

そんなある日、帰宅途中にバスから外を眺めていると、何となく気になるお店があった。私は直感的に何かを感じ、そのころ毎日鞄に入れていた履歴書を取り出し、そのお店に飛び込んだ。その時の直感と自分の行動については上手く説明が出来ないが、恐らく私は「縁」を感じたのだと思う。真っ先にそのお店のレジに向かい、「仕事を探しています」と告げ、履歴書を渡した。履歴書を受け取ったそのマネージャーもまた、私に何かを感じてくれたらしい。次の日の朝、その店のオーナーから電話がかかってきて、面接をしてくれることになったのだった。その電話の内容も上手く聞き取れず、やっとのことで面接時間を聞き取った、そんな英語レベルからのスタートであった。英語も上手く聞き取れない、話せない、そんな私が仕事を得ることが出来るのか?不安ではあったが、せっかく手にした面接のチャンス。熱意はしっかりと伝えようと決めた。結果は採用。私は驚き、「本当に雇ってくれるの?どうして?」と思わず聞いてしまった。オーナーは言った。「君は笑顔が良いから」と。英語を完璧に話せないような私を雇うなら、もっと完璧に話せる人を雇った方が、確実にリスクも少なく効率も良いはずだ。けれど、彼は私の英語が不出来なことを知りつつも、私の笑顔に投資をしてくれたのだった。私は「雇ってもらうこと」がどれだけありがたいことなのか、その時に初めて知ったのだ。

私はそれまでの人生、日本でアルバイトをした経験はあった。しかし「働く」ということについてこんなに真剣に考えたことはなかったような気がする。私は今回「働く」ということが誰かの期待に応えることだと知った。誰かが自分に期待をかけてくれるから、そこに需要が生まれ、仕事ができるのだと。また、誰かを雇い、給料を払うということは、その人に投資をするということ。期待をかけて雇い、期待されて雇われる。その構図はきっと、世界中どこにいようが変わらない。つまり、人は皆、「投資をしてもらえる何か」を持っているのだ。今回の私にとってのそれが「笑顔」であったように。それに気付いたとき、自分がこの社会にとってのほんの一部だとしても、必要とされている「人材」である、と自信を持つことが出来た。

カナダでの素敵な経験と出逢いに感謝をするとともに、これからは、生まれ育ったこの大好きな日本という国に必要とされる人間でありたいと強く思う。

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