【 努力賞 】
【テーマ:女性として頑張りたい仕事・働き方】
名札の底に勇気を秘めて
兵庫県 みい 29歳

駐車場に降り立つと頭上に広がる満天の星。うろ覚えの記憶で星と星を繋ぎながら、私は足早に事務所へ急ぐ。

ロッカーで制服に着替えると胸元で揺れる名札にそっと指を這わせ、私は小さく息を吐き出した。

長男を授かるまでの数年間、職場を何度か変りながら私は事務の仕事をして来た。一言で事務と言っても会社や部署によって仕事内容は全く異なるが、体力に自信のない私にとって自分のペースで仕事を進められるデスクワークは最適な職種であるように思えた。

だから再就職の際にはもう一度事務職に就きたい。その為には資格を取得して少しでもブランクを埋めておこう……。そう考えた私は退職後すぐ簿記の勉強を始めた。3級受験時には既に臨月になっていたが、大きなお腹を抱えて受験に挑み何とか合格することが出来た。

次に受けたのは秘書検定だった。これは長男が2歳の時で3級と2級を同時受験した為、長時間に及ぶ受験時間中母に長男を試験会場付近の公園で遊んでもらっていた。

それから文章検定1級、医療事務の通信講座などを受けて私は来るべき再就職の日に向けてひたすら準備を重ねて来た。

勿論子育てをしながら勉強時間を確保することは大変だったが、朝主人を送り出してからの時間や息子の昼寝の時間を使い、短時間で集中して問題に取り組むように努めた。

ところが資格取得に励み、後は次男の保育園入園を待って就職活動に漕ぎつけようと考えていた矢先、長男が突然ダンススクールに通いたいと言い出した。 

そのダンススクールは遠方にあり月謝や交通費など、かなりお金がかかる。今は無理だと告げようとしたものの、やりたいことを見つけた長男の好奇心に溢れた瞳を目にして瞬間、私は思わず頷いていた。

そこからが大変だった。ダンスレッスンの費用の捻出の為には働くより他ない。けれど2歳になったばかりの次男を保育園に預けることには躊躇いがあり、私の絶望的なハローワーク通いが始まった。

そしてようやく私が見つけたのは早朝のスーパーの品出しの仕事だった。これなら長男の見送りだけ母にお願いすれば、帰宅後次男との時間もしっかり確保できる。願ってもない条件だった。

この仕事を始めて8ヶ月……。6年間のブランク、経験のない分野への戸惑い、少なくとも朝4時半には起きねばならない体力的辛さ、布団から抜け出た私の気配を察知して追いすがる次男をあやし、後ろ髪引かれる思いで出勤する罪悪感……。苦しいことも勿論沢山あるけど、家族に支えられてどうにか頑張っている。

勤務2日目、私は長男から1枚の手紙を貰った。
「おかあさん おしごと がんばってね だいすき」

ミミズがのたくったような文字の最後に添えられたころりと丸いハートマークは、私がこぼした涙でたちまち滲んだ。

再就職に向けて準備をして来た私の6年間は、全く違う職種に就いたことで全て無駄になってしまったのかもしれない。そして現在の短時間労働では貰える給料とてさして多くない。

けれど私が1日たった3時間家を空ける為には朝食を作り長男を送り出してくれる私の母、眠る次男の様子を見てくれる祖母の大きな協力が必要不可欠で、そして頂く給与によって私は長男を笑顔でダンススクールに送り出してやることができる。これは私にとってかけがえのない喜びである。

長男に貰った手紙は、現在私の名札の底に折り畳んで大切にしまってある。

名札の底に勇気を秘めて、さぁ……今日もまた私の1日が始まろうとしている!

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