今を生きる学生たちには、「夢」という名の滑走路を、懸命に走ってほしい。
私は、高校で教鞭を執っている。現在、一年生の担任で、特進コースを受け持っており、クラスの生徒は全員大学進学を目指している。
ある日のホームルームのこと。テーマは、「将来の夢」についてだった。私は働くことの意義を話した後、生計を立てるだけでなく、仕事を通して自分の能力を発揮し、社会の一員となることが大切なんだよ、と説いた。
一通り話し終えたとき、一人の生徒が挙手した。成績が学年トップの生徒だった。
「将来の夢なんて、今、考える必要があるのでしょうか?私は、とにかく良い大学に進めたら、それで良いと思います」
生徒にそう言われ、驚愕した。周囲の生徒がザワつき始める。熱弁してきたこの時間は何だったのだろう―私は、言いようのない虚無感に襲われた。
ホームルームが終わり、チャイムが鳴ってから先ほどの生徒を職員室に呼んで、詳しく話を聞いてみた。とにかく、放っておけなかったのだ。
「親が、良い大学に入れって言うんです。そうすれば、絶対就職先があるからって。でも、正直言うと、私は自分が何をしたいのか、何になりたいのか、分かりません」
俯いた彼女は膝の上に握り拳を重ね、スカートをぎゅっと握っている。親が描いたレールの上をただ歩かされているような、そんな感じがして哀しくなった。
彼女は、決して将来に希望がないわけでない。ただ、仕事を通して社会を形成していこうとする考え方が希薄なのだ。職業に対する知識さえ与えれば、働くことについてもっと興味を持ってくれるはずだ。
進学に対しては意欲的なのに、将来、自分が働くことに対して消極的なのはなぜだろう、と思う。人生全体を考えても、働く年数の方が圧倒的に長くなる。
このときの出来事がきかっけとなり、私の教師生活に新たな目標ができた。それは、生徒が生涯設計を構築することを手伝うことだ。
これまでは、高校卒業後の進路の確保だけを目標としていた。しかし、学校生活は、社会に出るための基盤となっている。私は、クラスの生徒一人一人が、自分なりの職業観を確立していく過程を援助したい。そのために、自分がどのように働きかければよいのかを、しっかりと考える必要がある。
時代とともに仕事の内容やニーズも目まぐるしく変化していく。これからの未来を築いていく子どもたちのために、常にアンテナを張り、様々な情報を吸収していこうと思う。一人でも多くの生徒が夢を実現できるように、支えていきたい。