【入選】
どんな時代でも若者というのは、仕事が長続きしないとか、我慢が足りないとか、常識を知らないとか、定職に就かずにフラフラしているとか、散々言われるのが世の常だが、かく言う私も20年前、そんな若者の一人だった。
「三年働いたら辞めよう」今から20年以上前、私は福祉系の専門学校を卒業した後、地元に新しく出来た老人施設に就職が決まった。時はバブル崩壊直後。就職難の波がじわじわと寄せてきて、同級生の中にも卒業を目前にして、未だ就職先の見つからない者がゴロゴロいた。
だから私は、本当に運が良かったのだと思う。しかし私は、本来自分の進みたかった道とは別の道を選ばねばならず、素直に就職を喜ぶ事が出来なかった。
三年間働いた後に、私は退職した。本来の自分のやりたい道に進もうとして。しかし現実は、決して甘くはなかった。その為の道のりは又、自分の想像を遥かに超えていたのである。私は保育士になりたかった。資格取得の為に勉強を重ねたが、結局4年かけても取得出来なかった。初めて味わう挫折だった。
その後、私は飲食店のアルバイトを転々とする。やりたい事もなくなってしまった。情熱を注げるような何かも、見つかりそうにない。何をしたいのか。何になりたいのか。何が自分に向いているのか。
答えは見つからない。そんな中、アルバイト先ではいつも私ばかりが失敗を繰り返し、何度もクビを言い渡された。(どうせやりたい事じゃない)そう思ってはみるものの、又求人を探して面接を受けなければ、と考えると憂うつだった。
10年の時が流れた。相変わらず飲食店でのアルバイトを続けていた中
「一緒に店をやらないか」と声をかけられた。今現在の私の夫だ。二人、見知らぬ街で飲食店を始めた。命がけでやらないと、個人の店なんてすぐに潰れてしまう。給料だって貰えない。当然の事だ。
二人で色々な事を考えた。どうしたらお客が来るのか。どうしたらお客を満足させる事が出来るのか。飲食店のアルバイト経験を生かしながら、色々な事を試した。濃い毎日だったと言っていい。初めて自分の仕事と向き合い、初めて自分の仕事について深く考えた。一日中。店と客と仕事のことを考えた。そんな毎日を過ごすうち、やりがいとはこういう事かもしれない、という考えに辿り着く。どんな仕事も真剣に向き合えば、それはやりがいとなり、生きがいとなり、いつかは天職にさえなる。私がそれに気付いたのは、40歳を過ぎてからなのだ。
私は店に立ちながら、一つ目標を立てる。出来る限り迅速に、お客のニーズに応えようとか、売り上げを昨日より伸ばそうとか、そんな類の事を。そしてそれが達成されると、素直にうれしい。
飲食店の仕事は、誰にでも出来る。だから私は選んだ。でも実際は出来ない事が多かった。20年の時を経た今、私の店では私にしか出来ない事が、たくさんある。そしてそれを私は誇りに思っている。
今現在、あなたが働いている社会は、あなたの望んだ会社ではないかもしれない。本当にやりたい仕事ではないかもしれない。でもそれならば少し見方を変えてみるのも悪くないと思う。その仕事と改めて向き合い、その仕事を極めてしまえばいい。一度はあなたが選んだ仕事なのだから。そして極めた時に「自分のやりたい事はこれだ」と思える若者が、たくさんたくさん、増えたらいいな、と思う。その日は、誰のところにも必ずやってくると信じている。10年先かもしれないし、20年先かもしれないけれど。