【佳作】
四十年前、私が受けた就職試験の面接は集団で行われた。6、7人を1グループとし、課題について討論するものだった。課題は「このグループは宇宙船で、知らない星に不時着しました。宇宙船の中には、マッチ、ローソク、ロープ、水筒…しかありません。ドアを開ける前にどうするか、話し合ってください。」というもので、個人面接を想像していた私は驚いた。後で知ったが、集団面接の走りだったようだ。
この面接は、私に強いインパクトを与えた。仕事する上で、提案力、想像力、企画力、他人との協調、発言力といろいろなものが、求められるのに気付かされた。働く側から、いろいろ考えるきっかけにもなった。
初任者が意見を表明する場は大事だと思う。入社後、歓迎会があったりするが、その場を自己アピールの場にするといい。「なまいき」という空気をぶっ飛ばすぐらいの新人たちの心意気が欲しい。何人かが、仕事にかける思いなどを言い出すと、仕事を大事にするムードが作られるのではないだろうか。自己アピールは得意なものだけじゃなく、不得意なものもやったらいい。そして、助けてもらったら嬉しい、と感謝ができる人格であることを示そう。他人に寄りかかるのではなく、お互いが助け合う喜びを、会社の中に創り出したいと、希望を語ろう。働く者が協力し合って仕事をする姿は、使用者にとってもよいものである。会社が生き生きする。生き生きした労働からは、よい結果が生産される。そして、その時、働く者の自負が生まれる。
休憩時間や飲み会などを使って、会社の血のめぐりを活性化させよう。そこで、働く者同士が批判し、助言し、誉めて、互いを評価し合おう。「仕事は盗め」などという古い体質を蹴飛して、互いに「それ、自分もやってみようと思う」とおおっぴらに提案し合おう。よい使用者なら、このよさがわかるはずだ。
働く者同士を競わせる。売上台数の比較や能率と称して速さを競う業績評価には、極力抗おう。競争では、働き方の質は向上しない。ちょっと考えたらわかる。競争に負けまいとすると、そのことに気がいって、労働することに気持ちがいかない。ストレスとなり、心と体に負担がかかる。かかりすぎると壊れる。自分もダメにするが、職場の釘も一本抜ける。周りも元気がなくなりガタがくる。そんな労働でいい結果が出るはずがない。数量にのみ目をつけるなら、つまり、働く者を人間として大事にしないなら、結果は惨憺たるものになっていく。
人間の24時間は、ざっと8時間睡眠、8時間労働、8時間生きるための再生に使われる。労働の時間を活き活きとすごすことは人間が成長する時の大事な栄養だ。入社してしまった会社なら、使用者にはこのことは、わかってもらわねばならない。わからせる力を磨くことも、働く者の必須科目だろう。
ある日の夕方、飲み屋に入ったら、カウンターに二人の男性が座っていた。先輩か、年上の人が若い人に、一生懸命話をしている。横に座った私は、つい聞き耳を立ててしまった。「あんたが今日やった失敗は、労働災害にあたる。それは会社に申告して、補償してもらわねばならないこと」と親身に話していた。私は、偉いと思い尊敬した。
法律の勉強も必要だし、法律を使って自分の身を守る、同僚の身を守ることは大切なことだ。労働者と使用者は、一対一では対等ではない。だから団結権があり、団体交渉権があるのだ。これらを使うには勉強がいる。又、頼れる組合がいる。組合がないなら、作るしかない。何しろ一人では、使用者と対等ではないのだから。
働くことは、人間として成長することだと思う。うまく成長できる土壌を囲りと共に作りたい。