【佳作】
2020年の東京五輪が迫ってきた。求人需要も増え、雇用情勢は明るい兆しである。若者に限らず、これから働こうと思っている人達にとっては追い風と言っていい。それでも、いざ就職を決めるとなると、応募する会社や事業の成長性、職務への適合性、待遇、本当に自分のやりたい仕事か、それにも増して入社試験に受かるかどうか、こうしたさまざまな期待と不安がつきまとうはずだ。
誰にも将来のことはわからない。だから、迷うのは当然だ。結局、頼りになるのは、幼い頃から描いていた夢や憧れ、学んできたこと、染みついている感性、そして最愛の家族や友人の支えである。それらを打開するきっかけとなるのは何か。私はときめきがとても大事だと思う。応募職のどこに魅力を感じたか、入社したらどう取り組むか、そんな未来につながる思いを自在に巡らし、同時に仕事の面白さ・大変さ・将来像を意識し、応募するかどうかを決める。この時、ときめきがなければ、さっさとあきらめた方がいい。採用側の着眼点は応募者の目の輝きと心の叫びであり、すべてはときめきを探っているのだ。
私はシステム技術者として、民間会社に長く勤務してきた。定年退職後、もっと地域社会と人に関わることをやりたいと思った。模索した挙句、幸いにも非常勤ながら、高校、市役所、職業訓練校で、主に就職支援の仕事に携わることができた。
実を言えば、就職支援に関しては特別の資格もなく、ましてや何のコネもなかった。仕事柄、技術論文を書く機会が多かったことで作文や添削に慣れていたのと、社外の技術交流などに積極的に取り組んだ社会経験だけ。それを頼りに、<就職支援の仕事はやりがいがありそうだ>と自己暗示にかけてきた。したがって、応募先はすべてハローワークで見つけた求人票によるもので、その都度、自身が挑戦を繰り返してきたことで就職支援の本質を少しは理解できたかな、と思っている。
今、70歳となり、一時は<のんびり孫の世話でも>と思った。だが、「規則的生活と刺激があった方がボケ防止にもなるよ」と家族からの忠告を受け入れ、この4月から、新たな職場で週3日程度、末席を温めている。
その採用面接で志望動機を聞かれ、「私は今すごく、ときめいている」と語り始めた。<70歳になって今更、ときめきとは如何に?>そんな重い空気が漂ったが、冷静を保った。応募職は団体職員での事業支援である。私は「この年齢で面接の機会を与えられたことにまず感謝、それが一つのときめき。
加えて応募職では事業主が抱えている課題・要望を聞き、それに合った最適な訓練コースをその場で一緒に考え提案する。とてもやりがいがあり、脳細胞を刺激する素晴らしい仕事だと思う。だから、ときめいているのだ」と結んだ。後日談がある。入所後の歓迎会で面接を担当した管理職の方から一言。「採用面接で、高齢の男性から、ときめきという言葉を聞くとは思わなかったよ」このアンバランスな発想が妙に印象に残ったらしい。
社会経験の長いことだけが取り柄の私であるが、これから仕事に就こうと思っている若者に一言、エールを送りたい。<仕事選びは恋人を見つけるのと似ている。すべてはときめきから始まる>