【佳作】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
与えられた時間と環境の中で
岡山県  藤井通子  80歳

私はデンマークで出会ったあの美しい人々の心の風景が今もなお私の心に焼きついて放れない。七月の太陽はキラキラと輝き、日曜日とあって家族連れの幸福そうな人々の群、子供達のはち切れんばかりの笑顔、乳母車を押して子育てをしている若い父親の姿があちこちに見られた。

又色々の形で仕事の休みの日を利用しボランティア活動をしている人々、チボリ公園は大変なにぎわいを見せていた。小さな野外音楽ステージから美しい音楽が流れ大勢の人々が吸い込まれるように集まっていた。急いで走って行くと満員であるべき客席は全部真中を中心に空席になっていた。「おやっ、どうして空いているのだろう。」私は何か不思議な感覚にとらわれ着席せず外側の通路に立った。そこには大勢の障害を持たれた方々、お身体の不自由な方々が笑顔で立っておられた。

「どうぞお座りになって下さい。席が沢山あいています。どうぞ、どうぞ。」と席をすすめたがどの方も「私は大丈夫です。」「ありがとう。」と云われ決して自分達が先に着席されるようなことはなかった。自分よりもっとお身体の不自由な方のために誰に指図されることもなく自発的に他人への思いやりの心、私は胸があつくなった。ボランティアの中には「今日は主人が家事を手伝ってくれているのでボランティアに参加してるの。」と云われていた障害者の方もおられ、様々な働き方やひたむきに生き働いている人々の姿を見、デンマークの眞の姿を見た思いであった。私はこの國の教育の素晴らしさ、子育て、様々な働き方について大変興味を抱くようになり度々北欧諸国へ出かけるようになった。デンマーク労働監査局の調査によれば女性の就業率は82%、週当りの労働時間は31.5時間、専業主婦はわずか2%働き方にも各家庭により特徴がみられ、主婦と主夫の家事役割分担等、100人いれば100様の働き方の形が自らの手で造り出されている。夫々の家庭で一番働きやすい形を模索している。北欧諸国の男女共同参画社会へのとり組みを見るにつけ、日本では1999年男女共同参画基本法が制定されたが一人一人が持っている能力をいかに活かし社会に貢献出来るか私達に問いかけられているような気がする。私は現在80才、これ迄歩んで来た私の人生の中でどのような働きをしてきたか、ふり返れば時間の重さと速さをひしひしと感じる。

「自分に与えられた時間と環境。」の中で常に働くことの素晴らしさを全身で感じ乍ら過して来た。

どの時間も自分への学びであり素晴らしい人々との出会いの時間でもあった。

二十代中端に結婚し出産、育児、職業人として仕事と子育て両立、三十代から四十代にかけては私の人生の中で最も多忙な日々、主婦であり母であり職業人でありボランティア活動、青少年健全育成事業、青少年國際交流協会設立、学生相談、公民館活動、母と子の学習会等々ボランティア活動にも専念、父母の応援を得て仕事育児両立。四十代後半になり主人の両親、私の両親四人中三人が病気で倒れ介護が重なり一日三時間の睡眠をとるのがやっとの日もあった。私達を支えてくれた人を失い途方にくれた。仕事を短縮し週3回に切り替えのり切った。「今一番大切なことは何か。」を優先し決断して来た。五十代は仕事を自己研鑚、ボランティア等、六十代に仕事を辞し主人と相談の上念願の北欧諸國への学びの旅、七十代は若い頃から夢見たボランティア一色の生活、八十代の今も続いている。

健康であったからこそ続けられた私の道、変化と対応の中で今一番大切なこと、家族にとっていい形の働き方を模索し行動する事の大切さを感じる。國の政策、「働き方改革。」「多様な働き方選択。」が揚げられているが女性が働きやすい社会、育児施設の拡充を第一に提言したいと思う。私は「自分に与えられた時間と環境」の中で若い人達を支援し働くことの素晴らしさを感じ乍ら私の道をしっかりと歩んでいきたいと思います。

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