【努力賞】
【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
踏み出す勇気
神奈川県  西岡奈緒子  36歳

私は新卒で入社して働き始めて、今年勤続15年目となる。学生時代には、まさか、これほど長く仕事を続けるとは考えていなかった。どんな仕事をしたいか分からず、とりあえず数字が好きだから、数字を使った仕事を使えるといいかな、といった程度に考えていた。「簿記の資格をもっていれば、どこかの会社の経理で働けるかもしれない」と思って簿記の勉強をした。

就職活動を考えていたころの私は、何とか自力で歩けるけれど、長距離は難しく、階段の昇降には手すりが必要だった。私は子どものころから筋ジストロフィーという病気だ。この病気は進行性である。症状や進行速度には個人差があるが、車椅子を使うようになる人も多い。せっかく就職できても、病気が進行したら辞めざるを得なくなるだろう、と漠然と考えていた。少しでも長く勤められたら、と実家に近く、障害者雇用枠にて採用募集をしていた大手家電メーカーを受けることにした。たまたまインターネットの障害者雇用のサイトで募集を見つけたのだ。仕事内容は、「コールセンターのお客様の声の分析」など。数字を使いたいという希望とは違うし、どんな仕事だか想像もつかなかったが、自宅から近く、バリアフリーで車通勤可能という条件にひかれた。不安な気持ちでいっぱいだったが、筆記試験と3回の面接を経て、採用してもらえることになった。

新入社員研修を終え、夏の終わりに配属されたが、どうやって仕事を進めてよいかもわからず、ただ疲れる日々だった。初めての上司が、「お金をもらうために働くだけのサラリーマンではなく、自分の意志で仕事を動かしていくビジネスマンになるように、俺は魂を教える」と、新入社員3人を前に何度か自分の経験談を伝えてくれた。その上司はたった1か月で他の部署に異動してしまったが、一緒に撮った写真に『魂』とサインをしてくれた。不安でいっぱいだった私が、前を向いて少しでも歩んでいこう、と思えるようになった。

うちの会社は、やりたいことにチャレンジしやすい環境だ。もちろん、やるべき仕事を進める必要はあるが、チャレンジに対して前向きだ。私は、ことあるごとに「数字にまつわる、管理の仕事がしたい」と伝えることにした。石の上にも3年。もがきつつも、少しずつ仕事のノウハウが身についてきた。入社4年目に、念願かなって異動が決まった。ちょうどそのころ、歩くのがだんだん大変になってきて、車椅子を使うことを考えはじめた。車椅子でも仕事を続けられるか。このタイミングで辞めるべきか。悩んだ。けれど、上司が親身に相談に乗ってくれて、電動車椅子を使いながら仕事を続けることができるようになった。

病気が進行するたびに、会社と相談して、環境整備や配慮をお願いしてきた。以前の私は、誰かに何かを相談するとか、人と積極的に関わるということが苦手だった。自分の居場所はどこだろう、と悩んでいた。けれど、仕事を通じて、自分のスキルを高めながら、いろいろな人と交わることで「ここにいたい」と思える場所ができた。その思いを伝え続けて、仕事をしながら、病気や障害をもっている人も共存できる社会にしていきたい、と強く願っている。

仕事を探したり、続けたりするには、悩みや不安がつきものだ。しかし、一歩踏み出すことで、新しい道を拓いていくことができる、と私は仕事をしながら気付いた。やりたいことを見つけるのは難しいが、続けることで道が見えてくることもある。

今も、悩みや不安はあるけれど、できる限り、仕事を続けたい。会社で続けるのが難しくなったら、別の形を見つけたい。仕事は自分を知り、学ぶことの楽しさを教えてくれる。

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