それは一通のメールから始まった。
「私と一緒に合宿の企画をしませんか?子供さんたちも大きくなったことだし……」
メールをくれた彼女は私と同じシングルマザーで、高校生の息子さんがいる。彼女との出会いは、シングルマザーの会が企画した合宿で、意気投合したことだ。それ以来、親子ともども仲良くさせてもらっている。しかし、知り合って七年もたつと、自分自身の悩みや取り巻く状況も変化していく。子供たちの成長とともに、だんだん会からも足が遠のいていった。
彼女は現在、介護福祉士として働くかたわら、会のボランティアスタッフとして活動している。「すごいなー」と思う反面、「私には無理」と仕事と子育てを理由に、彼女からの誘いを断っていた。
思い返せば数年前。合宿で夜通し彼女と語り合ったことがあった。
「世の中をよくしたい。シングルマザーの私たちに何ができるかな?」
確かそんな話を、長々と語り合ったと思う。そして出た結論は「それっていつか、自分に返ってくることだと思う」だった。
昨年のこと。参加者百名を超える会のシンポジウムにて、司会進行を引き受けた彼女は冒頭でこう話した。
「私の原点は、合宿で友人たちと夜通し語り合ったことです。その友人たちも今日は駆けつけてくれています」
「私のこと?」と驚いた。あれから私は何も変わっていない。自分にも、何か出来ることがあるのではないか?と問い続けてはきた。でも、どうすることも出来ないから……。言い訳をしては、そのうち誰かが変えてくれることを望んでいた。
「変わりたい」――ずっとそう思っていた。だからこそ、今回の合宿の企画を引き受けてみようと思った。そして企画が動き出した。
ゴールデンウィーク前。彼女と私と娘(小六)で琵琶湖へ下見に出かけた。延々と電車に乗り、目的地へたどり着いた。そこにあったものは、真っ白い砂浜とどこまでも青く澄んだ湖面。ただそれだけだった。一緒に行った娘は、湖に足をつけながら「ここいいね。楽しいね!」と言って、はしゃいでいた。
「普段、母子だけでは出来ない体験がここでは出来る」と彼女は語った。水遊び、スイカ割り、バーベキュー、そして花火。子供たちの笑顔が思い浮かぶ。お母さん方がホッとできるよう、夜はおしゃべり会もしよう……。
宿泊先の方と打ち合わせをし、その後施設を見学。質問をしながら、当日の動きも確認した。「また連絡するね」と言ってお互い別れた。
そして六月。会報に掲載され、合宿の申込が始まった。数日たって、彼女からメールが届いた。
「受付開始から数日で定員に達しました。キャンセル待ちも出ています。今年は勢いがありますね」
――驚きと同時に笑みがこぼれた。うれしいスタートとなった。
支援される側から支援する側へ――。これまで参加者だった私は、今年はボランティアスタッフとして働く。普段は金属関係の工場で、フルタイムのパートとして働いている。モノ作りの仕事は楽しい。けれども、それは生活をするための手段だ。お金では得られないつながりを求めて、私は働く。そして、参加してくれる親子が「楽しかった!」と少しでも笑顔になれるようにと願う。私がそうだったように……。
一人では出来ない。だからつながっていこう。交流をひろげていこう。夏休みを待つ子供みたいに、今からワクワクしている。