【努力賞】
【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
自分にとってのベスト
栃木県  岡村友里  42歳

「よし、働こう!」下の子が幼稚園に入園したのをきっかけに、私は職探しを始めた。

以前の仕事は残業が多く、子育てをしながらの復帰は困難で、妊娠を機に離職していた。できれば長く続けられる安定した仕事に就きたかったのだが、夫の実家は遠方で、私の実家は祖母の介護などで頼りにすることが難しい。

その為どうしても、子供達の急な病気や長期休暇をどうするかがネックになってしまって、職探しは難航した。

面接までこぎつけても、やはり質問は子供達の件に及び、直接的に言われることはないものの、雰囲気で落ちることが分かる。

女性の社会進出や、子育てに関する様々な支援が声を上げ始めているが、現実はまだ厳しいのだ。加えて、まだ幼い子供達と一緒に過ごす時間を削られることにも抵抗があった。

私自身は共働きの家庭で育ち、小学校は鍵っ子で、運動会でさえ両親が来られず、祖母がお昼だけお弁当を持ってやってくる、ということもあった。母が働くことに対して不平を言うこともなかったが、それでもやはり寂しさを拭い去ることはできなかった。

そのこともあり、自分の子供達には同じ思いをさせたくない、という気持ちが強かったのだ。

けれど、今の時代、子供達の学費や習い事、将来のことを考えると働かない訳にはいかず、私は考えた末ファストフード店で深夜のアルバイトを始めることにした。夜、子供達を寝かしつけ、帰宅した主人と入れ替わりで出かける。

とは言え、深夜二時過ぎまで働き、翌朝子供達の朝の準備をするのはなかなかに辛かった。

しばらくは子供達を動揺させないよう働き出したことを内緒にしていたが、いつも集合場所までしていた学校のお見送りが、やがて玄関先までとなり、常に欠伸をしている私の様子を見て、さすがに不審に思ったようだ。

隠し通すこともできず、ある日、子供たちに働き出したこと、でもそれは家族みんなの為であることなどを隠さず話した。

最初は子供達が夜に私がいない事を嫌がるかと思ったが、そうではなく、逆に私の様子が変わった原因が分かり、安心したようであった。

深夜の勤務は、私と同じ小さな子を抱える主婦や、家族の生活を支える為、副業として働いている人。

夢を持ち、日中は勉強しながら夜学費を稼ぐ人など様々な理由を抱えて働く人が多い。

普通に子育てしながら正業に就いている人から見れば

「パート?アルバイト?もっと安定した仕事は探さないの?」

と思われるかもしれないが、今の私には、この働き方がベストなのだ。人にはそれぞれ合った働き方があり、内容も様々だ。

これから先、子供達の成長とともに、私もまた別の仕事や違った働き方を見出す機会があるだろう。若い人や子育て世代、シルバー世代など、それぞれが抱える問題が浮き彫りになる度、職業の形態も多様化し進化する。より多くの声が上がることで、日本社会全体が成長し、誰もが安心して自分に合った仕事を見つけられるようになるのだと私は思っている。

いつもの時間、怠けたくなる気持ちを「頑張るぞ」に切り替えて、私は仕事先へと向かう。玄関を開けると同時にバタバタと聞こえてくる足音。エンジンをかけながら二階の窓を見上げると、そこには私を見送る三つの影が見えるのだ。

「行ってきます」

車の窓から手を振り返し、私は今日も元気に働くのであった。

戻る