【努力賞】
【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
Sin Cos 知らなくても何とかなる
長崎県  老翁  85歳

何時の頃だったか、入試にはどうにか合格したものの、sin,cos(sine,cosine)を良く理解出来ていない学生が入学して来た。これが理解出来ていなければ、微分積分等も当然判っていないであろうから、機械工学科の講義にはとても付いて行けないだろうと教える側の私もいささか困った。そして考えた末に、他にもそんな学生が何人か居るだろうから正規の講義終了後に、「工業数学の基礎の基礎」として高校レベルからの補習を行うことにした。勿論単位などは無く、出欠も自由だが、10名ほどの学生が集まって補習講義が始まった。判らない所を勉強しようと自ら決心した学生たちは、放課後にも関わらず熱心に講義を受け、それなりに考え、理解を深めて、大方一人前の学生にまで成長してくれた。そして、中には低空飛行ではらはらさせられた学生も居たが、最後は全員、必要科目の単位も総て立派に取って、元気に大空に羽ばたいて行った。

最初に書いたsin,cosが判らない学生は、「元々車が好きで、車の事さえ詳しくなれば、一生その仕事で食べていけると思い、高校時代は殆ど勉強もせずに車に明け暮れした。そして卒業後は車の修理工場に就職してその仕事をして来た。然し暫くすると車の仕事にも限界を感じて来て、他の仕事をして知識や生活の範囲をもっと広げたくなり、その為には勉強が必要だと思って大学を受験した。」と明かしてくれた。そして補講で、sin,cosから微分積分などを真面目に勉強し、最後には修士課程にまで進んで行った。自分なりに満足できる働き方や、歩むべき自分の人生に思い至ってくれたのであろう。

以上に述べた話や世間で時折話題になる話から、「働く」ことに関して私が考えることの幾つかを以下に記して、働く若い人達の批判や理解をお願いしたいと思う。

@働く事の本質は、sin,cosが判らなくても、しっかりした向上心を持って自分なりに自習、勉学し、努力をすれば何とかなる、と言うことである。要は決心と実行力の有無であろう。上記の「彼」がそのことを明白に示している。更に上記の様に一生の間の仕事は一職種とは限らず、途中で別の職業に変わることもある。その為には、出来るだけ広い範囲の知識を身に着ける様に平素から心掛けて置く必要があろう。

A入社して数年で会社を辞める人が多い。厳しいなりに、そこでもう1年頑張れば何とかなる、と信じて頑張ったら如何であろうか。そうすれば本当に状況が変わるかも知れない。辞めたい半分の理由は、或いは自分自身に有るのかも知れないからである。

B最近の就職希望者には、給与は安くても残業が無い方が良いと言う人が多いらしい。「働く」とは自分の仕事を100%完全に成し遂げることが求められる訳で、体調や家族との団欒もあるだろうが、頑張って仕事を立派に完成させる喜びも感じて欲しい。古い話で恐縮ながら、私共の若い時代には土曜も出勤日で、残業もして、月に1〜2回は日曜出勤も普通であった。尤も家族からは総スカンを食らった思い出がある。

C最近は厳しい仕事、いわゆる昔の3K(きつい、汚い、危険)の仕事を外国から来た人に頼る風潮がある様で、聊か日本人として気になる所である。厳しい仕事、例えば介護の仕事などにも、もっと多くの人が手を差し伸べて欲しい。尤も介護作業の対価が安過ぎるのは是非とも改善すべきことで、若い人達はそこらにも声を挙げて改善を勝ち取って欲しい。

私も馬齢を重ねて85歳、時に小学生の模型飛行機作りのボランティアをする程度で他は何も出来ず、洋々たる前途が拡がる若い人達を羨ましく見ている。将来ある若い人達が世の中の人々の為にしっかり働いて、幸せな人生を送られるように願って止まない。

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