【公益財団法人日本生産性本部会長賞】

【仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
等価交換
山梨県  takeda  30歳

「こちらの商品の再販はありますでしょうか。」
ある日お客様からメッセージをもらいました。

私は正社員の仕事を続けている中、趣味で動物をテーマにした造形物を作っていました。インターネットの販売サイトに、それらを出品していたところ、売れ行きが徐々に上がりはじめました。「可愛い」「面白い」と言ってもらえて、趣味の範囲から仕事にしたいと思い、ついに結婚を機に会社を退職。在宅で主婦をしつつ、一人で造形制作の仕事をやっていこうと決めました。

趣味の範囲から一転、仕事になると、それまでとは見え方が大分変ってきました。一手一手にお金が発生していることに気が付いたのです。正社員の頃は、降りてくる仕事をこなしているだけだった自分。それには1円、10円と秒単位でお金が発生していることに、いまさらながら気づかされたのです。商品制作に何時聞かかったのか。材料費はいくらだったのか。送料や梱包の代金や手配。小さなことに細かく手間やお金が発生していました。

「これだけ頑張ったのだから、◯◯円にして売りたい」と高値にすれば商品は売れません。

とても根本的なことだったのに、私は「仕事」というものを、会社から出て、初めて知ったのです。そして、私は今までの自分が恥ずかしくなりました。

会社が右も左も分からない新入社員の私を採用し、先輩が時間を割いてまで教えてくれたこと。制服や道具、いろんなものが当たり前のようにそろっていたこと。分からなければすぐに教えてもらえた環境。

今の私には、教えてくれる人どころか、風邪をひいて寝込んでも変わってくれる人さえいないのです。

そんな中、私の作ったものを買ってくださったお客様から「ありがとう。大切にします。」という言葉をいただきました。そこには仕事をした自分へ、言葉とお客様のあたたかさがありました。一点一点売れるたび、私の心はとても温かく、感謝の気持ちにあふれていくのでした。お客様が、一生懸命働いて稼いだお金で、私の商品を選んでくれているということ。私はそれにしっかりと、応えられる仕事をしなければいけないということ。私のやる気や誠実さを、顔は見えないけれど、商品を受け取ってくれている人から育てていただいている。そんな気持ちになりました。

そんなある日、「こちらの商品の再販はありますでしょうか。」というメッセージがありました。

「うちの犬が、先週なくなりました。この商品は、うちの犬にそっくりです。どうか、また作っていただけないでしょうか」

それまで、面白いという反応が多く、買っていただいた私には、少しびっくりするお問い合わせでした。急いで、そして丁寧にその商品を作り、お客様にさっそくお送りしました。

「ありがとうございます。うちの子が生きているみたいです。ありがとうございます。」

と、返信をいただきました。私の手で作ったものが、誰かの役に立っている。それを実感するような出来事でした。今まで気づいていなかったけれど、仕事をするということは、生活の為とどこかで思っていた私。当たり前のように何もかも受け取れて、権利ばかり主張してきた自分。本当は、仕事とは、誰かが誰かのために尽くすことなのではないか。自分のできることを相手に渡し、出来ないことを誰かに助けてもらう。等価交換のようなもの、と今は考えています。これからも私は誰かに助けられて、私も誰かの力になっていけるよう、仕事をがんばっていきたいとおもいます。

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