【公益財団法人勤労青少年躍進会理事長賞】
農業には、随分前から「きつい」「汚い」「危険」という仕事のイメージが定着しています。その影響により今日では、耕作放棄地の総面積が42万ヘクタールと言われています。耕作放棄地とは、農作物が一年以上栽培されておらず、これから先も栽培する予定が全くない農地の事です。42万ヘクタールは東京都約2個分に相当します。それに加え、農業従事者の平均年齢がなんと、67歳と日本の重要な産業である農業の未来が脅かされる状況に陥っています。皆さんは、「農業」をやりたいと思いますか。
私が暮らしている茨城県大子町も農業の盛んな町であり、母の実家も米の栽培と肉牛の繁殖を行う農家を営んでいます。しかし、近年では著しい少子高齢化に伴って、やはり耕作放棄地が目立ち始めてきたなと感じるようになりました。あなたも見回してみると、身近なところに荒れ果てて雑草だらけになってしまった農地があるのではないでしょうか。私は、そのような変わり果てた農地を見ているうちに、段々と「この綺麗な農村風景を絶対に壊したくない」と強く思うようになり、その強い思いから農業経営者となるために水戸農業高校農業科に進学しました。農業の土台となる土作りから販売方法まで様々なことを毎日学習し、自分には一体どんな形の農業が良いのかを日々模索しています。
そのような様々な農業の学習をしているなかで、保育園児や小学生、特別支援学校の生徒さんなどたくさんの方と農業を通じて交流する機会がありました。その活動を経験してみて、初めはなかなか相手に心を開いてもらうことができず、どう接すれば良いのだろうと困ってしまうことがほとんどでした。
しかし、一緒に作物の苗を植えたり、野菜を収穫したりしているうちに自然とコミュニケーションが取れるようになり、最後にはお互いが笑顔で話せるまでになりました。この時、私は、農業には人の心と心をつなぐ懸け橋となれる不思議な力があるのではないかと感じました。
野菜の生産・パッケージングをしている会社の見学や、世界規模で開催された農業サミットに参加した時に、「障がい者雇用」について触れる機会がありました。その中で学んだことは、障がいを持っていても作業内容を細かく指示する。たとえば、今まで一人で行っていた作業を数人で分担させ個々のレベルに合わせて仕事を割り振るなど、ほんの少し工夫をするだけで健常者と同レベル、もしくはもっと高レベルのクオリティで仕事を行うことができることを知りました。しかし、社会では「障がい者イコール仕事をこなせない」という固定観念が存在しており、そんな社会の勝手な思い込みで障がいを持った大勢の方々が辛い思いをしています。私はそういった辛い思いをしている方々が社会の一員として自信を持って活躍できるように「農業の力」でお手伝いがしたいと考えました。
私には母の実家で行っている米の栽培と畜産の繁殖を中心とした観光農園を設立する夢があります。そして、たくさんの人が農業をとおして食べ物を作る楽しさや喜びを感じ、笑顔になってほしい。更に、会社をきちんと法人化し、様々な社員を雇うことで規模を大規模化し、耕作放棄地を一つでも多く減らすと共に、多くの人々に農業のすばらしさを感じてもらいたい。私にとって働くとは、自分は、どうありたいのかを常に意識の中に置き、変化を恐れず、一歩を踏み出すこと。
「きつい」「汚い」「危険」のイメージだった農業は、これから先きっと、日本人の食を支えるだけでなく、心をも支える産業になると信じています。年齢・性別・障がい者も健常者もなくお互いの個性を活かせるユニバーサル農業。あなたも「農業」をやってみたいと思いませんか。