【入選】
私は、IT商社に務めている。
そう言うと後輩は決まって「すごい」と言う。なぜなら、私の後輩は「IT」と「商社」についてよく知らないからである。かく言う私も、2年前は「IT商社」と聞けば、「すごい」と言っていた。では、なぜ私は「IT商社」に務めるようになったのだろうか。それは単純なことで、「IT」と「商社」についてはっきりとした認識を持つようになったからである。
就職活動を始める前の私は、「IT」は、パソコンを知らない人には関係の無いものだと認識していた。
しかし、あるドラマの影響でITの認識が覆された。
昔は遠く離れた家族に連絡する手段は手紙しかなかった。しかし、「早く伝えたい」という想いが電話を生み、メールを生んだ。そして、顔を見て話したいという想いがテレビ電話を生んだ。このように、ITの発展の原点は人の想いだと話していた主人公の姿に私は衝撃を受けた。IT系の会社のイメージは、「眼鏡をかけてパソコンに向き合う事しか出来ないコミュニケーションが苦手の人たちの集まり」から「誰かを想う気持ちから製品を生み出す温かい心の持ち主の集まり」に変わったのだ。
「商社」も同じだ。就職活動前の私にとって「商社」は、「英語のできるバリバリ働く人の集まり」だった。しかし、実際にある会社で聞いた「商社では、あなたが商品です」という言葉で認識が変わった。
その言葉には、以下のような意味が込められていたからだ。
メーカーは自分の会社で生み出された商品がある。小売店は、より良い商品を仕入れて消費者に提供する。しかし、その間に立つ商社は何を売るのだろうか。メーカーも小売店も1つの商社としか契約を結ばない、ということはほとんどない。つまり、メーカーに「この人なら、うちの商品を任せられる」と思わせ、小売店に「この人の推す商品なら、うちの店舗に置いても良い」と思わせなければならない。だから、商社は働く人が商品となるのだ。これを理解した時、私の中で「商社」は、「人間力の塊のような人の集まり」に変わったのだ。
実際に今の職場には、相手のことを常に考え、「自分」という武器を磨いた人が集まっている。今の私は、2年前とは全く違う意味で「IT商社はすごい」と同じ言葉を口にしている。認識がそれほどにも恐ろしいのだ。間違った認識のまま就職活動を終わらせていたならば、今の会社には出会えなかった。今「働く」という事を考えているあなたには、仕事を通して何を成し遂げたいのか、自分自身に問いかけてみてほしい。
医者は「医者」になりたいのではなく、「人の命を救いたい」はずだし、建築家は「家」を建てるのではなく、「そこに暮らす人の笑顔」を作りたいはずだ。例えをあげたら、きりがない。どの職業も仕事に就いて終わりなのではなく、仕事に就いてからが始まりだ。だからこそ、働くという事の先を考えてほしい。
あなたが作りたいものは何なのか。
あなたが届けたいものは何なのか。
あなたが守りたいものは何なのか。
そして、職業1つ1つに込められた「想い」をちゃんと見てほしい。そこで働く人たちは何のために働いているのかを見てほしい。そして、同じ想いを持つ人を探してほしい。
綺麗事のように聞こえるかもしれない。働く人みんながそこまで考えてないのかもしれない。しかし、結局は誰もが認める大企業に務めることよりも、自分と同じ想いを持つ人と働く方が何億倍も価値を見いだせる。それが、有名企業なのかもしれないし、小さな町の工場なのかもしれない。それを決めるのはあなただ。
私は、あなたが胸を張ってこの会社で良かったと思えるような、そんな素敵な会社と、そこで働く人々に出会ってほしい。それだけである。