【佳作】
「模擬試験監督時給 1000円から!」「時給900円 イベントスタッフ募集中!」バイト求人サイトをみていると次々と求人情報が目に入ってきた。私の目は真っ先に「時給」という二つの漢字を探し、1000円以下のものは「安っ!絶対嫌だ。」と言い投げ捨て、読み飛ばした。
幼い頃から海外でほとんど過ごして、海外の大学に通っている私は日本でバイトをしたことがなく、バイト自体もほとんどしたことがなかった。そのため、日本の大学に通う友達から、バイトで稼いだお金で旅行に行ったという話やバイトで貯めたお金で家族にご飯をご馳走したという話を聞くと羨ましい限りだった。だから、大学一年生を終えた夏休みには日本に一時帰国して、バイトをし、たくさんお金を稼ごう、と決めていた。夏休みが始まってすぐ、バイト求人サイトを毎日みた。時給は絶対1500円以上、稼げるだけ稼ごう、そう思っていた。ある日、「時給1800円!短期可!日英翻訳バイト」というバイトを見つけた。即座に応募した。デスクに座って翻訳するだけ。体も動かさないし、良いバイトだ。そう思った。書類審査と面接に合格し、いよいよバイトが始まった。一日8時間、ひたすらパソコンに向かって翻訳。一日終わると、「時給1800円×8時間=14,400円!今日もこんなに稼いだ!」と計算し、ウキウキしながら自宅に帰った。
そんなある日、バイトからの帰宅途中、日本に住んでいた時に通っていた幼稚園生から高校生までの生徒が通う英語塾の前を通りかかった。ドアを開ければまさに海外。日本語は一切禁止で、ネイティブの先生から授業を受ける大好きな塾だった。懐かしくなり、挨拶をしようとドアを開けた。“Oh,I missed you!” “Welcome back!”先生たちは久しぶりに会った私を抱きしめてくれた。その時、私は思った。
またここに戻ってきたい。翻訳のバイトをやめてここでバイトをさせてもらおう、と。そして私の念願は叶った。授業の前後に生徒達と一緒に英語でお話をしたり、カードゲームをしたり、本の読み聞かせをしてあげたりした。宿題を手伝ってあげたり、お絵かきを手伝ってあげたり、わからない単語の意味を教えてあげたりすると、子供達は満面の笑みで“Thank you!”と言ってくれた。小学校低学年の授業を担当する機会ももらった。レッスン終了後に、生徒達から“Thank you!It was fun!”と言われるのが心から嬉しかった。翻訳のバイトでは日に日に溜まっていくバイト代を計算するのが楽しみだった。しかし、今は自分が誰かの役に立てているということ、誰かに感謝されることを身をもって感じることが楽しみだ。
このバイトを始めて、私は気づいた。時給がすべてじゃないということを。時給というコンセプトは労働者に安心感を与えるもの、そして雇用者側が給与を計算しやすくするものでしかないのかもしれない。もちろん、働くということはお金を稼ぐこと。給与をもらうことはとても大切で必要なことだ。しかし、私は働くことは時給だけが魅力ではないと気づいた。
英語塾のバイトの時給は教えてもらっていない。初めての給与については八月上旬に振り込まれるということしか伝えられていない。時給を伝えてくれていないのは、もしかしたら先生たちが私に働くことには時給以上に大事なものがあるということを伝えたいからかもしれない。この「時給のわからないバイト」が私に大切なことを教えてくれた。働くこと、人の役に立つこと、そして感謝されることを身をもって感じる楽しさを噛み締めながら私は明日もバイトへ向かう。