【佳作】
「お仕事は辞めなくていいよ。私たち女性は、社会との繋がりが大切だから」
その言葉を聞いた瞬間、長年胸につかえていたものがスッと取れたような気がした。第二子の1歳半健診での出来事だった。
「お仕事は辞めなくていいよ。私たち女性は、社会との繋がりが大切だから」
たったその一言を心に留めておくだけで、どれだけの女性が救われるだろう。そんな風に思った。
「お仕事は辞めなくていいよ。私たち女性は、社会との繋がりが大切だから」
この言葉を、すべての働くママに届けたい。いや、働くママだけじゃない。妊娠・子育てを理由に働くことを諦めてしまっているママにも。また、近い将来、一度は同じ壁にぶち当たるであろう若い世代の女性にも。
──第一子の妊娠報告後、即解雇という“マタハラ”を経験した私は、社会への未練を断ち切ることができず、第二子出産後すぐに在宅ワークを始めた。業種はライター。よくあるWebコンテンツのコラムを書く仕事だ。
「主婦が片手間に」そんな印象を持たれることが多かったが、現実は決してそうではない。私の両脇には、ワガママ真っ盛りの2歳児と、生まれたばかりの0歳児が常にいる状況。ライター活動に集中できる時間なんて、作ろうとしない限り生じることがないのだ。毎朝4時に起きて、寄稿先を探す。そして、エントリー後にテストライティングを行い、採否の連絡を待つ。まずはそんな地味な作業からだった。無事に採用された後も、変わらず4時起きで原稿に取り掛かる。しかし、そんな状況が時に辛くなることもある。子どもたちが大きくなるにつれて、私の体力は追い付かなくなっていたのだ。
「弱音を吐くくらいなら辞めるべき」、「子育てに支障をきたしてまでやらなければいけないことなのか?」そんな悪魔の囁きに、違和感を覚える。同じ仕事でも、男性と女性というだけでなぜこんなにもやりにくいのだろうか。
ライターを始めてちょうど一年が経つ頃。第一子の保育園入園をきっかけに、執筆時間を早朝から日中に切り替えた。もちろんその間、第二子を放置しているわけではない。週に何度かは散歩へ連れて行くし、作業中もスキンシップを怠らならい。
しかし、その回数が多ければ仕事の効率は悪くなる。そのうえ、遊び足りないと癇癪を起されればこちらもストレスが溜まらないことはない。私がPCに向かうだけで泣き叫ぶような日は、徹夜で作業に取り掛かることもある。
「落ち着いて子育てができているか」と聞かれたら「Yes」とは言い難いけれど、私なりにうまくやれていると思っていたが、しかし。第二子の1歳半健診で、ネグレクトを疑われてしまったのだ。正直、とてもへこんだ。
「マタハラの次はネグレクトか」そんな風に思った。私は仕事をしたいと思ってはいけない、仕事=私のワガママだ、キャリアや夢は諦めるペき、母親なんだから子育てに集中しないと…。今までの行動を含め、私は自分自身を全否定した。すると、1人の保育士さんが私にこう声をかけてくれたのだ。
「お仕事は辞めなくていいよ。私たち女性は、社会との繋がりが大切だから」。
私は、その一言で救われた。これまでの様々な経験から、母親が働くことは「罪」とすら考えてしまっていたのだろう。でもそれは違う。絶対に、違う。仕事、すなわち社会との繋がりが子育てをより価値のあるものにしてくれていたことに変わりはないのだ。
この先、今以上に女性社会が進んだとしても働くママたちが抱える悩みや不安が尽きることはないだろう。仕事や職場を変えても、私のように新たな問題が発生することもあるだろう。それはもう、母親である以上仕方がないことなんだと思う。
だとしたら、自分が納得する生き方を選択しよう。そしてその背中を予どもに見せよう。
改めて、そんな風に思えたのだ。
長いようで短い人生のうち、子育て期なんて本当に一瞬。そんな貴重な時間を、悩んだり、悔んだりしていては母にも子にも毒なのだ。