真っ黒なスーツに真っ黒の靴、見渡せば鞄も髪も皆同じ黒で身を包んで右も左も分からないまま挑んだ集団面接から早5年。当時の私は、この日本特有の就活に違和感を覚えながらも周囲と違うことをする勇気が持てないまま、ただ流れに逆らうことなく何とか合格した企業に就職した。就職した学校法人では、希望の部署ではなく大学病院の勤務、今まで全く縁のなかった病院内の様々なことを学ばせてもらい、とてもよい経験になった。よい経験には。だがしかし、毎日が会社と家との往復でへとへとに疲れていた。満員電車の中、周りを見渡せば死んだ魚のような目をしたおじさん。鞄が当たっただけでもの凄い剣幕で怒り出す綺麗なお姉さん。我先にと人を押しのけて座ろうとするおばさん。気がつけば私もストレスと疲れで希望が持てない、そんな人間へと変貌していった。
ある日の仕事帰り、いつものごとく死んだような顔をして満員電車に揺られていた私。停車していた駅から次から次へと人が乗り込み、更に奥へと押し込まれていった。多くの人々が不満そうに押され、重苦しい空気が流れる車内から、ふと大きな笑い声。何事かと思い顔を上げるととびきりの笑顔の黒人の男の人が大声で笑っていたのだ。その人は恐らく日本の習慣にあまり慣れていないのか、この満員電車に驚いて面白くなってしまったのだろう。その後も次から次へと乗ってくる人々の波に、もみくちゃにされながらも、笑顔を絶やさず笑い続け、大いにその場を楽しんでいた。周囲の日本人は、変な人が乗ってきたと怪訝な顔をその人に向けていたが、私はその人が一際眩しく、輝いて見えて仕方がなかった。何も希望を持てなかった私に一筋の光を見せてくれた神様ように思えたのだ。
「自分の心、考え方次第で人生はとびきり楽しくできる」その人に会ってから、私はこのままじゃいけない、もっと人生を楽しみたいと強く思うようになった。学生時代から好きだった英語や国際交流にまた関わろうと英語を学び直したり、仕事でも外国人対応を積極的に行ったりした。例えどんなに辛い仕事だとしても、これが自分の将来のためと楽しめれば、どんな仕事も怖くないと思えるようになった。
そしてあの彼に背中を押されるように、3年半勤めた会社を辞め、夢だったニュージーランドへ留学した。
留学中も帰国後も多くの人々に出会う機会が増える中で気づいた事は、自分の好きな事をしている人、仕事に夢中になっている人、仕事に楽しみを見いだしている人の目は誰よりも輝いているという事。働き方は人それぞれあっていい。周りに流されず、自分をしっかりもっていれば毎日がとても楽しく充実したものになることは間違いないという事である。周りに流されていくのではなく、自分の好きな事を突き詰めていく事で自然の流れに乗るのだ。好きな事を追い続けていくと、不思議と次々に道が開かれていく。今の私は、お金こそないけれども、自分の好きな英語とコミュニケーションの分野で勉強し、楽しみながら働くことができている。毎日が充実感で溢れ、楽しいと心から思えるのだ。しかし現在も周りを見渡せば浮かない顔の多くの人々。そんな人は一度立ち止まって自分自身に問うてほしい。自分のやりたいこと、ワクワクすることは何なのか、本当にやりたかった事は何だったのかと。例えどんなに非現実的だったとしても、何か選択肢で迷った時はワクワクする方へ進む事が幸せに繋がっていく。
死んだ魚のような目を希望と光で一杯にしたい、そんな日本人が増えることが私の願いでもあり、日本の未来をより良く変えていくのではないかと強く思う。夢、目標をもつのに年齢制限はない。心が変われば自分自身が変わり、そうすることで周りの人々も、そして世界がガラリと変わる。「ワクワクを追っていく」事が、今の私の生き方のモットーであり、このワクワクという幸せを日本中の人々に伝染させたいと強く思う。