【努力賞】
一筋の光
山形県  佐藤沙織  28歳

真っ暗なトンネルの中を歩く。時には急ぎ足で、時には足踏みをして、立ち止まって、また歩く。光の見えない先を目指して。

10年前の高校時代に遡る…。私はやりたいことがなかったので、進学をせずに就職した。心の中では、自分がやりたい仕事・夢を明確にしている友達が羨ましかった。どんな仕事があるのだろう、どの職業が向いているのだろう、5年後、10年後には何になっているのだろう、学生時代に真剣に考えても答えが見つからなかった。

社会人になり、様々な職種の仕事を経験してきた中で、私を変えたのが建設業の事務である。初めての事務職は不安で仕方なかったが、官公庁への書類作成、請求書・見積書作成、原価管理と日に日にできる仕事が増え、新しいことを覚えるのが新鮮だった。現場事務の役割である「人」「物」「お金」という経営資源のマネージメントを通じて、技術以外の面から工事を支えることに魅力を感じた。

それまでの私は整備されている道路や、公園の維持管理、冬の時期は道路上に降る雪を飛ばして、吹き溜まりや視程障害を防ぐ防雪柵など、当たり前だと思っていたが、建設業に携わり、陰で支えてくれる仕事の存在に気が付いた。時には、無理難題の仕事に追われることもあったが、苦労や壁にぶつかり、そのハードルを乗り越えて目標を達成した時には、大きな充実感があった。仕事を通じて周囲とのコミュニケーションの取り方、仕事の進め方など、様々な面で勉強になることが多く、その一つ一つを吸収し、自分自身の成長に繋がり、とてもやりがいを感じていた。そんな中で、私は一人の女性と出会った。

税理士事務所巡回監査職員の定期訪問で、会社の経営状況や経営計画のアドバイスにより、会計に興味を持ち始めた。「日商簿記検定2級の勉強に挑戦してみたら?」その言葉に私は心が動いた。スキルアップの為に学び、専門知識を増やしたいと思い始めた簿記の勉強。仕事が終わってから夜学校に通い、日商簿記検定2級の資格取得に挑戦した。正直、仕事と学校の両立は大変だったが、学習を進めていく中で仕事にも活かせ、無事簿記検定2級の資格に合格できた。その一方で、気持ちの中で7年間建設事務に従事し、将来のことを考え始めた。従業員の高齢化が進み、後継者もいない現状に、このまま正社員で働き続けるか、真剣に考えた。

高校卒業して10年という節目に人生の大きな決断をした。自分を変えたくても、なかなか前進できずにいた道のり。現状を変えたいならば、勇気を出して、環境とマインドを変えること。本当に自分がやりたいことに出会えることが人生最大のチャンスだと思う。そして、この春10年ぶりに学校に通い、大学生活送っている。本当にやりたいことに出会えたからこそ、改めて勉強できる時間、環境に感謝している。

将来は親身になってサポートができる税理士になりたい。その為には、税理士試験の受験資格の一つである日商簿記検定1級合格を目標に日々精進している。自分の可能性を信じなきゃ何も始まらない。もし10年前に自分がやりたいことが見つかっていたらなんて思わない。今まで経験してきた中で、自分がやりたいことに出会えたのだから、あとは目標に向かって前進あるのみ。何の一貫性もないキャリアなのに今までの経験が所々で活きてきて、繋がっているって思う瞬間があるから不思議。人生一本道とは限らない。勿論計画通りに人生の道をまっすぐに進んでいる人もいるだろう。近道もあれば遠回りもある。今までもこれからも始めるのに遅いなんてない。「今」この瞬間を大切にしたい。強い意志があれば起伏の多い道でも前進できる。暗闇のトンネルの中に一筋の光が差し込む。その光に向かって一歩踏み出す。少しスピードを上げて、もう一つ先の未来へ…。

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